「どうなさいましたか?」


真っすぐに二人に向き直って問いかけると、
土方さんは窓の方へと近づいて握り拳に上から蓋をするように重ねて手を震わせ、
榎本さんは口元の血を拭いながらもゆっくりと立ち上がって、
埃を払うような仕草をしながら立ち上がった。



「山波君、二人分のビールを用意してもらえるかね」


榎本さんは何事もなかったかのように、
私に指示を出し、私も同意するように一礼して、
ビールを支度して部屋へと戻った。


「お待たせしました」


グラスを手渡して二人もとにゆっくりと注ぎ入れる琥珀色の液体。


土方さんは今もイライラして居るような感じが伝わってきていたが、
榎本さんは気にしない素振りか、気になりながらもそう思わせない作戦なのか、


「土方君もどうかね。
 私はこのビールが気に入っていてね。
 葡萄酒よりもはまってしまったよ」

 
なんて言いながら飲み始めた。


「榎本さん。
 どうして俺たちを撤退させた?

 俺たちはまだ戦える。
 戦えたんだ」




ビールが注がれたグラスをテーブルの上に置いて、
両手でバンと机の天板を激しくたたく土方さん。



その反動でグラスから飛び出して天板を濡らすビール。




「そうして君は何時まで死に場所を求め続けるのかね?」



次の瞬間、土方さんに向けて榎本さんは、
言刃(ことば)を突き付けた。


すぐに言い返すかと思った土方さんは、
図星だったのか無言のまま、その場で立ち尽くして、
平静さを装おうとするかのように、グラスの中のビールを口元に運んだ。




「君は死に場所を求め続け僕は加賀君だったかな?
 彼女が僕を突き刺したように、
 新政府軍への降伏をするタイミングばかりを伺ってきたのかもしれない。

 新政府軍の総攻撃が近いことを僕は知っていて、
 君もまたそれに気づいているのではないか?

 だからその場所で君は、その命を終わらせるタイミングを探しているような気がしてね。
 何度も君と話し合いたいと望みながら、
 そのタイミングを逃し続けて今日まで来てしまった。

 僕は君を死なせたくないんだよ」



榎本さんは土方さんを諭すように話し続けた。


今も土方さんは言葉を発することはない。

ただ静かに目を閉じて何かを考えている、
そんな雰囲気だった。




「土方さん、山南さんも土方さんの死を望んではいないと思うんです。

 だけど……山南さんの死を見届けた私だから、
 感じることもあります。

 土方さんは確かに死に場所を探しているのかもしれない。
 だけど……それは榎本さんが思うような自らを悲観して望み続ける死ではないと、
 そう感じています。


 山南さんが新選組の未来を思って、その命を使ったように、
 土方さんも若い人たちを守るために、その命を使おうと思っていませんか?

 若い人たちを生かせる為の死に方」





そう告げた途端、土方さんは……ばれちまったのか……っと、
悪戯が見つかった子供のように力なく笑った。





「……土方君……」




榎本さんは驚いたように土方さんの名前を紡ぐ。



「でもね、ここにせっかくの思いあう、理想を持つお二人がいるんですよ。
 諦めるための戦いじゃなくて、未来を創造する為の戦いに変えませんか?

 ボスが最初から諦めてたら、勝てる戦も勝てないです。

 気持ちで負けてるんですよ。

 それに戦で守るべきものは何ですか?
 武士のプライド?意地?

 それともこの地で暮らす民ですか?」


そう問いかけた私に土方さんは力強く答えた。



「この地で暮らす民を守れずに、
 どの面下げて戦える?

 俺たち新選組が守るべきものは、
 何時だって弱気もの。

 その地に暮らす、力なきものたちだよ」


そう言って土方さんは何かを思いついたように、
榎本さんの部屋を飛び出していく。



私たちも土方さんを追いかけるように、
彼の後を追う。




自室の地形図の前に立って、
土方さんが見つめる。