溢れ出した涙を何度か掌でこすって涙を鎮めると、
ゆっくりとベッドから立ち上がって鞄の中から木箱を取り出した。


そして再び、総司の眠るベッドサイドに腰かける。

木箱をくくる紐を解いてゆっくりとふたを開けると、
総司の眠り続ける掛布団の傍に静かに置く。


そのまま木箱に入った布を手紙ごと引き出すと、
ゆっくりと膝の上に置いた。



「総司……、これは花桜の家にずっと受け継がれてきた手紙なんだって。
 お祖父さまとお祖母さまに借りて来たんだ。

 一人で読むのは怖いから一緒に聞いてくれる?」



そう言って総司に話しかけると色褪せた手をゆっくりと開いた。













記憶の中の大切な友へ





今、この手紙を読んでくれているのは、
誰なのでしょうか?

今は名前すら薄れてしまった、
記憶の中の大切なアナタ。


アナタと過ごした時間が、
私にとって、かけがえのない宝物です。


舞ちゃんの悲しみから続く連鎖を断ち切りたくて、
龍神様に祈り続けた日々。


そしてその願いが聞き届けられた時から繋がった縁。


その中で得た、かけがえのない宝物に、
私は今は心を満たされて過ごしています。


舞ちゃんと斎藤さんの血を受け継ぐ、
幼子が受け入れた先の未来。


愛しいものを抱きしめて、
今の私は心穏やかに過ごせています。


せめてもの想いを託したくて、
山南さんの一族を訪ねて、この文を託しました。





記憶の中の大切な友へ。


貴方は今、幸せにお過ごしですか?
















舞?







古びた手紙に記されたのは、
確かに舞の名前で……、その舞は
確かに加賀舞として存在していたはずの名で。









遠い、この世界から秘め続けられた舞の覚悟を想う。




舞、貴方が一人で背負う必要なんて何処にもないの。
遠い未来で、私も背負い続けるから。




貴方が繋げてくれた縁を忘れないように、
私のこの場所で一生懸命歩き続けるから。




古びた手紙は大切な友が記した、
彼女が生きた証。




私は再び、木箱へとその手紙を片づけて、
木箱越しに舞を想いながら抱きしめた。







舞が守ってくれてる。

だから……総司も総司として、
私の傍に帰ってきてくれる。





何故かそんな風に思えた瞬間だった。