「パパが言うと非現実的で、非科学的で、本来はパパが口を出すものじゃないのかもしれない。

 だけど……一連の瑠花が体験してきたことは、
 瑠花の為に必要な時間だったと思うし、その全てを含めて、
 瑠花自身が自分の中に刻み込む必要があるものかもしれないね。

 いつか、瑠花自身が忘れてしまうことになっても、
 書き留めることが出来れば、何か、敬里君や舞ちゃんが生きて来た証が残ることになるんじゃないかな。

 それは瑠花にしか出来ないことだと思うし、
 瑠花が行わなければいけない役割かもしれない。

 その為には、山波家に受け継がれている秘密も受け止める必要があるのかもしれないね。

 さて、パパもお風呂に行ってくるよ。
 明日も早いからね」



そう言いながら、パパはリビングを後にしていく。

パパが退室したリビングでは、
何処か心配そうな顔で私を気に掛けるママがマグカップに
ハーブティーを入れて、私の前に置いた。



「瑠花ちゃん、全てが終わったらママにも教えてちょうだい。
 今は何も言わないわ。

 飲み終わったらゆっくりと休むのよ。
 睡眠不足はお肌の敵よ。

 今は、ハリがあってプルプルでも歳を重ねたら影響出ちゃうわよ」


そう言ってママも、リビングを出ていった。

一人、残された部屋、私はアルバムをめくりながら、
大好きな歴史の世界を思い出す。

幕末の世界を思い出す。


冬が終われば、花桜と舞は土方さんたちと最期の戦いを迎える。
その時には、ちゃんと私も総司の分まで土方さんを見送りたいって思えるから。


だからその前に私もあの手紙と向き合う必要がある。



鴨ちゃん……勇気をまたわけて。
私が今一度、強くなれるように。


私の中に今も大きな存在として居続ける鴨ちゃんに、
パワーを貰えるように語り掛ける。



アルバムを最後まで見終えて、マグカップのハーブティーを飲み終えると、
私は自室のベッドに戻り就寝した。


翌朝、土曜日なのをいいことに朝から山波の家を訪ねた。



鏡の中では、花桜と舞が再会して、
二人で何かを話し合っているみたいだった。


時折、深刻な表情をみせる舞。

そして驚きながらも、真っすぐに向き合おうとする花桜の表情が移されるたびに、
私も向き合うときが来たのかもしれないと感じた。


鞄の中に大切に居れて持ち歩いている木箱を想い、
鞄の上からそっと触れる。


覚悟を決めたように私は花桜のお祖父さまとお祖母様へと、
今日、総司の傍で開封しようと思うことを告げた。


二人は、柔らかに頷いてくれた。
山波の家を後にしようとした時、敬丞さんが私の姿を捉えた。




「瑠花さん、お加減はいかがですか?」

「有難うございます。
 今は落ち着いています」

「それは良かったです。
 瑠花さんがここ数日、陰って見えたので心配していました。
 今からご予定は?」

「えっと、今から総司の……あっ敬里さんの元へ」

慌てて言い直すと『総司で構いませんよ』っと笑いかける。


「ご一緒してよろしいですか?
 着替えを届けるようにと師匠に申し付かりまして」


そう言って、着替えが入っているであろう鞄を私の傍で持ち上げた。



総司が入院するパパの病院へと向かう道中、
私は久しぶりに、山崎さんと会話を楽しむ。


口調が変わっても、やっぱり何処か懐かしさが残る所作。


この先の未来が向かおうとしている場所が、
少しずつ強くなっていく中で、山崎さんは花桜の希望で、
総司は私の希望であることには変わりなくて。


そんな愛しさを必死に抱きしめる。


パパの病院へと辿り着くといつものように
手続きを済ませて、山崎さんと共に特別室へと向かう。


山崎さんは手早く、着替えを詰め替えて洗濯物を回収すると、
一礼して部屋から出ていった。



人工呼吸器が繋がって、
シーンと静まりかえった部屋に機械音だけが響き続ける部屋。





「総司、今ね、土方さんは監察の島田さんたちと一緒に、
 蝦夷地で頑張ってるよ」



眠り続ける総司に報告するようにベッドサイドに腰かけて、
総司の髪に触れながら声をかける。



「もうすぐ……土方さんの物語も終わるんだよ」


そう言いながら、その先に続く未来を想うと、
瞳から涙がこほれ落ちてしまう。