「瑠花、こんな時間にかい?」

「うん」



だって今、その場所に行きたい、行かなきゃいけないって
私の心がザワツイテいるから。



「瑠花、制服から着替えてきなさい。
 パパが車を出すから」


そう言われて、
私は今も制服から着替える事すらしていない現実に気が付く。


慌てて自分の部屋に戻って、
制服をハンガーにかけて私服に着替えを済ませると、
パパの車へと急いだ。


パパに住所を告げてナビに打ち込んでもらう。


ナビの案内通りに車を走らせてくれるパパ。

10分ほど閑散とした夜の街中を走らせると、
目的地周辺ですっと無機質な声が告げる。


道路端のコインバーキングに駐車すると、
私はパパの車を降りて、電柱に記された住所を手掛かりに探していく。



この電柱は1丁目。
あっちの電柱は2丁目。

このマンションは1丁目の4の17。
舞の住所は、1丁目の6の13。




「君、こんな夜遅く何してるんだ」



ふと、自転車で巡回中らしいおまわりさんにまで、
声をかけられてしまう。


「お仕事お疲れ様です。
 娘の同級生の家を訪ねるところでして……」


っと、一緒に探してくれていたパパがすぐに助け舟を出してくれた。


「あぁ、親御さんと一緒ね。
 なら良かった。

 住所は何処かわかる?」


促されるままに、舞の住所を告げるもののお巡りさんは首をかしげる。



「その住所だと、この道を真っすぐに行った左側なんだけどね。

 長年、この町で警察として働いているけど家はたってなかったと思うなー
 小さな公園になってる場所だよ。

 住所の聞き間違いじゃないかな?」



そう切り返すお巡りさんの言葉に、
想像が現実のものになっていく恐怖を感じながら、
お礼を告げてその場所へ急いだ。



その場所は、確かに公園になってた。

公園と言うほど遊具が沢山あるわけじゃなく、
二人乗りのブランコが風で揺れている。


だけど……去年までは確かにこの場所に、
舞宛の年賀状を送っていて、
宛先不明で戻ってきたことはない。




この場所には、舞の家があったはずなんだ。
だけど舞の自宅はない。



「瑠花?」
「パパ、舞が帰って来ないのかもしれない」



震える声でパパに告げる。
私は暫く風に揺れるブランコを見つめ続ける。



「瑠花、体が冷えてしまうよ。
 舞ちゃんのことは、明日、パパも気にかけてみるから」


パパに促されるように再び車へと戻り帰宅。
そしてその日、パパはお風呂上がりの私をリビングへと招き入れた。

パパが広げていたのは幼い時の旅行写真。


私が小さい頃から歴史が好きだったから、
その歴史の舞台へと旅行で連れて行ってくれた写真たちだった。



「鏡の中で蝦夷で頑張っている姿を見てね、
 思い出したんだ。

 瑠花にせがまれて北海道に旅行したことを。
 瑠花は新選組が最期に戦った舞台に行きたいって、
 函館に行きたがったね。

 この道を多分、土方さんが馬で駆け抜けたんだと思うって、
 松川街道で箱館山をバックに写真を撮ってたね」



そう言ってパパは懐かしそうに、
アルバムの写真を見つめ続けた。
 

「……そんな昔のこと覚えてたんだ……」




パパと一緒にアルバムを覗き込むと何も知らなかった私が、
ただ憧れと探求心だけで追い求めた世界が、
小さな写真として少しずつ切り取られた時間がそこにはあった。



「……五稜郭に行った後に、四稜郭にも行きたいって、
 我儘いったこともあったよね。

 その場所は五稜郭ほど有名じゃなくて、あまり観光客も行かない場所で」


「そうそう。
 それでも瑠花は、二週間で作られた場所が見たいって泣きじゃくって。

 やっとの思いで向かった場所は、小さな蝶々風の野原で。
 思っていたものと違って、また泣き出して……」


そう言いながらパパは懐かしそうに笑ってた。