パパの車内、ラジオは新選組の歴史を辿る旅人が出演しているのか、
幕末好きなら即座に反応してしまいそうな地名や名前が、
何度も何度もスピーカーから紡がれていく。


昔の私なら、それだけで嬉しくなってラジオの音声に聴覚を集中させてた。


だけど……今の私には、
そんな余裕すら存在しない。



ただ何も言わず、だんまりを決め込んだだけの車内。

ハンドルを握るパパには多分私が考えていることはお見通しなんだと思うけど……、
それでもそっと傍に居続けてくれた。


やがて自宅へと辿りつくと車の音を聴きつけたのか、
ママが玄関で私とパパを迎え入れてくれた。


何か言いだけなママをパパが窘めて(たしなめて)くれているようだった。



「ただいま戻りました」



小さくママにお辞儀と挨拶をして、
真っすぐに洗面所へと向かい手洗いと嗽(うがい)を終えると、
自分の部屋へとあがって鞄を所定の位置へとおいて、
制服を脱ぐことも出来ないまま、ベッドへと体を預けた。



総司は今もパパの病院で眠り続けている。

私が幕末の時代から、総司を現在へと連れて来たのは間違いじゃなくて、
それは決して許されることではないのかもしれない。


だけど……世界は、それを許してくれた。

そして……総司だけじゃなくて、
もう一人幕末からこの世界に来た人がいる。

山波敬丞として新たな名前を経て、
この世界の住人として受け入れられてる山崎丞さん。





どうして?



総司が受け入れられると同時に、
本当の敬里は幕末でその命を落とした。


幕末の世では、史実通りに沖田総司は死を迎え、
今此処にいる総司は、山波敬里として世界は受け入れてる。


その秘密は多分、まだ私が開封することが出来ないあの木箱の中の手紙に綴られているのだと思うけど、
今はまだ開ける勇気がない。


ベッドの上、制服のリボンを取り外して、
ブラウスのボタンをはずすと、右手で前髪をかきあげながら溜息をついた。


その後、何度か深呼吸を繰り返す。



総司と山崎さんは、この世界に迎え入れられた。


総司は敬里によって受け入れられたのだとして、
あれっ?山崎さんは?


山崎さんの代わりに、知らない誰かが幕末に行ってるの?
それとも……、現在、幕末にいる花桜か舞、どちらかが戻って来ないの?




そう考えた途端に今度は怖くなった。



花桜はずっと、
この世界に戻って来ることに執着してた。


だけど……舞は?



この世界に戻ってきて、ずっと花桜のことしか考えられてなかった。


花桜は私の幼馴染で、親友だから当然って言ってしまえばそうなんだけど、
舞は花桜にとっては大親友で、学校は違っては私も舞と友達ではあった。


花桜の友達と言ってしまえば、
そうなんだけど……一緒に旅してた仲間のはずなのに。



そう思ってしまうと、いてもたっても居られなくなった。




ベッドから起き上がって、鞄の中から手帳を取り出すと、
年賀状用に交換してた舞の住所を記憶にとめると、
慌てて階下へと降りた。



「瑠花さん、静かになさい」



ママがリビングから顔を出す。



「パパ、出掛けてきていい?
 私、舞の家に行きたい」


リビングのソファーでアルバムを広げながら、
寛いでいたバパへと声をかける。