えっ?
もう一人の舞ちゃんって何?


「もう一人の舞ちゃんって、わけわかんないよ」

「……だよね。
 私も最初はそうだった。突然、私の心の中に湧き上がってくるんだもん。

 私自身がその記憶を受け止められるようになったのは、
 ちょうど芹沢さんが亡くなった頃かなー。

 長州の人が殺したって話を当時、私も聞かされたけど、
 私はそれは違ってるってすぐにわかっちゃった。

 心の中で舞ちゃんが否定してたから。

 あの頃、花桜は花桜で凄く辛くて大変な思いをして自分と必死に向き合ってたけど、
 私も、舞ちゃんの膨大な記憶と向き合ってたの。


 その後は、私は舞ちゃんに同じような後悔をさせたくなくて、
 新選組とではなく単身、晋兄を追いかける旅をしてた。

 晋兄の最期を見届けるまで。
 その頃かな……、本当の意味で自分の中の未来が固まり始めた。

 そしてもう一度、舞たちと同じ時間を歩みだした。

 斎藤さんってね、記憶の中の舞ちゃんが新選組で唯一心を許してた人なんだ。
 ううん、それだけじゃない。

 舞ちゃんが思いあってた存在。
 そして舞ちゃんと斎藤さんの思いの果てに生まれたのが敬里……」



えっ?
何、それっ。


そんな今、アイツの名前が出てくるのよ。


そんなことを想いながら、
ある日突然、アイツが沖田さんとして
幕末に存在していた現実を思い起こしていた。



「敬里は、記憶の中の舞ちゃんと、斎藤さんの間に
 生まれた子供から繋がる系譜だってずっと思い込んでたけど、
 二人の大切な子供だったことが、会津降伏の前に知ることが出来たよ。

 アイツが……敬里が持ってた手紙で……」



舞が告げた言葉は、私のキャパを一瞬にしてパンクさせてくれる。
山波敬里は、舞の記憶の中の舞ちゃんと斎藤さんとの間の子供って何?


だけどそう言われると、しっくりするのかもしれない。




私は敬里と従兄弟だと言われて育ってきた。

物心着いた時から、そう信じて育ってきたけど、
敬里の両親を一度も見たことはない。


入学式も卒業式も参観日も……

私の行事の時は、父と母のどちらかが必ず出席してくれていたけど、
敬里はずっとお祖父ちゃんが多かった。


今までは何とも思ってなかったけど、
今思い返してみれば不自然と言えば不自然かもしれない。

山波家の家宝、沖影だって、
イメージ的にいったら、男子である敬里が受け継ぐほうがいいに決まってる。


だけど……沖影は今は私の傍にいる。
全てを知ったうえでお祖父ちゃんたちが見守ってくれていた?



「後は……本当に謝らないといけないこと。

 多分、これからこの場所で起こるはずの何かで、
 激しくショックを受けた舞ちゃんが、今回の一連のタイムスリップを
 引き起こしたと私は思ってるの。

 私と一緒に居たばかりに、花桜にも瑠花にも辛い思いばかりさせたと思う。

 そして……敬里のことも……。

 だけどね、ちゃんと花桜のことは私が守るから。
 敬里の分まで、ちゃんと守るから安心して。

 アイツのことも、私……巻き込んじゃった。
 罪悪感ばっかりで、懺悔のつもりで吐き出したら、
 アイツっては、あっさり受け止めてくちゃってさ。

 ……こんな風になって、
 ようやく素直になれた私の存在を感じたんだ……」




思いがけなく舞によって聞かされたカミングアウト。





今も頭の中はぐちゃぐちゃで、
何から受け止めて整理していけばいいのかなんてわからないけど、
ただ一つ伝わってくるのは、
舞自身が苦しみ続けてきたことだって感じ取ることが出来るから。



だから、今はそんな舞を優しく包み込める自分でいたい。




明かされた物語の秘密を受け止めながら、
私は舞を今一度、じっくりと抱きしめた。