そんなことを感じながら、ウトウトとしてしまっていた私に、
船の持ち主さんが声をかけてくれた。



「もうすぐ港ですよ」っと。



その声に、少し夢でボーっとしている世界から、現実へと意識を向けなおす。

少し覚束ない足取りで何とか立ち上がって甲板へと出ると、
凍てつくような寒さが体を突き刺した。


「うわぁ、寒っ」

っと、反射的にブルブルと体が震えるのを感じながら接岸を待った。



船の荷下ろしが始まり作業を船賃代わりに手伝った後、
私は船主さんに丁寧にお礼を告げて、その場所を離れた。


次に目指すのは、箱館・五稜郭。


雪化粧された山道に、足を何度かとられながら、
立ち止まりそうになる足を奮い立たせて前へ前へと歩き続ける。


手足の感覚が冷たすぎて麻痺したかのようになっているのを感じながらも、
この中で縋れるのは、舞ちゃんが体験した記憶だけだった。


私にとっては無縁の場所。
だけど舞ちゃんの記憶としては、懐かしいその場所。



そして舞ちゃんが全てを歪めてしまうほど、
後悔してやり直しを願った場所。


一連のタイムワープの原因を作ってしまったその場所。


行くのが怖くないわけじゃない。

あの時に、舞ちゃんが何を体験して願って、
時空を歪めて今の一連の事件を引き起こしてしまったのかまでは私もわからない。


だけど……例えそれが怖いものだとしても、
私には瑠花を現代へと帰せたように、
花桜を絶対に向こうの世界へ送り返す責任があるから。


その為には、恐れていても向き合う覚悟が必要なのは確かだから。


ひたすらに記憶の中の道をトレースするように歩み続けた時、
?何者だ』っと見知らぬ声が降り注いだ。




声が聞こえた方向に意識を集中させながら、
目を凝らす。



その声の主に、残念ながら見覚えはなくて……、
どう会話を切り出そうかと悩みながら、その人を見つめる。





「何者だ。
 何故、このような場所で女が一人、歩いておる。

 貴様、薩長の手のものか?」


薩長?
薩長って言った?
 

そういう言い方をしたってことは、
記憶通りにこの場所は、旧幕府軍が占拠しているってことで大丈夫なのかな?



「お忙しい中、申し訳ありません。
 私は会津より、人を探しながらこの地へと参りました」


そう言いながら、門を守る兵士の方へと近づく。
兵士が警戒しているのが、向けられた銃口から伝わってくる。


冷たくなって感覚がほとんどない両手をこすり合わせて、
はぁーっと息を吹きかけながら、更に声を出す。



「私は新選組、斎藤一の使いのものです。
 こちらに新選組副長、土方さんと、同じく隊士の山波花桜は居ますでしょうか?」


紡いだ斎藤さんと土方さんの名前に反応したのか、
兵士がお互いに視線で合図をしあうような仕草を繰り返す。



「突然、新選組と告げても戸惑われるのもわかります。
 少し懐に手を入れることをお許しください」


っと断りを受けて、私は懐に手を入れると、ずっと肌身離さず身につけてきた、
花桜と瑠花と私の匂袋を取り出した。


その匂袋と共に持ち歩いているのは、
近藤さんの新選組の羽織を引き裂いて作った隊士たちの絆。