この場所で花桜の帰りと舞の帰りを、
総司と花桜が思い続ける山崎さんと待ち続けるために。



だから……お願い。
まだ私の体よ、悲鳴なんてあげないで。




ちゃんとやるべきことを、
成し遂げたいから。





鴨ちゃん…、
私を遠くから見守って。


貴方が想いをやり遂げたように、
私もその『強さ』を持ってして背負い続けたいと
思っているから。






仮初の総司にただ憧れ続けるだけで、
何も現実と向き合うことが出来ていなかった私に、
鴨ちゃんは、現実を受け入れる強さを私に教えてくれた。



鴨ちゃんが居なくなった後も、
残された世界で私が悲しくないように、
総司ともつながる接点を残してくれてた。


ずっと気が付くことすら出来なかったけど、
こうなった今だからこそ、そんな風に
鴨ちゃんの存在を感じることが出来るようになった。


鴨ちゃんの死は、無駄じゃなかった。
長い時間が過ぎて、ようやくそんな風に感じられるようになった。



だから今は、その『強さ』で前に進み続けたいって、
そう思うのに……どうして体が言うこと聞かなくなるんだろう。


心がそれを受け止めるのを拒否するんだろう。
ちゃんと私は自分の足で、この場所で立ち上がっていたいのに。



……鴨ちゃん……。









「瑠花……瑠花……」


誰かの声が聞こえる……。

優しく懐かしいその声に誘われるように、
私はゆっくりと目を開ける。

眩しい光と共に降り注ぐの声。


「起きたか……。
 なんて顔してやがる」


大きな手が私の頭を撫でてくる。


「……鴨ちゃん……どうして」

「声が聞こえたからな。
 お前が呼んだら無視なんて出来ないだろう」

「鴨ちゃん……」

「ここが瑠花の住む月なんだな。

 無事に帰れて、この場所で
 一人で頑張って来たんだな」

優しい言葉が羽のように降り注いで、
私は瞳から温かい涙が零れ落ちるのを感じていた。


「鴨ちゃん……私に強さをちょうだい。
 今よりも、もっと強くなりたい。
 
 守られる側じゃなくて、
 大切な人を守れる強さを」


そう……揺るぐことのない
強さが欲しい。


「瑠花は十分強い。

 あの頃のお前よりは、
 見違えるほどでっかくなってるよ。

 もう十分に沖田を守ってやがるだろ。
 この先は、瑠花が一人で抱え続けるものじゃない。

 儂もこの場で瑠花を見守ってる。
 信じろ。

 瑠花自身の強さを」


鴨ちゃんのそんな声に包まれながら、
私は、ゆっくりと体の力が抜けていくのを感じていた。