そのまま壁に背中を持たれかけさせたまま、
ズルズルと下へと体をおろした。


暫く震え続けていた体はやがて落ち着いて、
呼吸も普通に出来るように回復していた。



「警備員さん、この個室です。
 ここの個室が、ずっとさっきから使用中のままで」




外からそんな声が聞こえてきて、
暫くすると、ドアをノックする音と共に警備員さんらしき男性の声が続く。



「大丈夫ですか?」

「……はい……。
 大丈夫です。
 
 今出ます」


ドアの外に声をかけて、私はゆっくりと立ち上がる。

立ち上がって、
ポケットの中か携帯電話を取り出して時間を確認する。


18時37分。



あっ、病院を出たのが16時少し回った頃だから、
ここで意識を失ってたのかもしれない。



何事もなかったかのように、
ドアのカギに手をかけて、外へと出る。



「申し訳ありませんでした」

「いえ、ご無事なら安心しました。
 まだ顔色が優れないようですが、
 どうされました?」

「落ち着きましたので。

 持病と言うほどでもないのですが、
 少し過呼吸症状が出てしまったようです。

 お手間をおかけしました」




サラリと何事もなかったように、お店のトイレを後にして
外に出ると、外は日が沈んで暗くなっていた。


この時間だと、もう図書館は閉館した後。

だったら、駅前の書店かな。
本屋さんへと足を向けて、何かから逃げるように新選組に関する本を見つけては、
手に取ってページをめくり続ける。



沖田総司に関わる歴史の記録を探し続けるように。


何か手に取って立ち読みした後、
読み切れなかった何冊かはレジへと持って行って購入する。


分厚い本を鞄へと片づけると、
本屋さんを出て花桜の家へと向かうバスに乗り込む。




こんなことがあった後だけど、
多分、このまま真っすぐに家に帰って一人になると、
あのことばかりに意識が集中しすぎてしまうかもしれない。


花桜や舞のことも気になるから……。


そう自分に暗示をかけるように、
バスに乗り込んで揺られる。
  


最寄りのバス停に辿り着いて、花桜の家までに向かう途中に、
パパからの着信が携帯に入った。



「もしもし」

「瑠花、今、どこにいるんだい?
 16時過ぎには病院から帰ったと聞いたが……」



ごめんなさい。

図書館に行く途中に息苦しくなって、
飛び込んだお店のトイレの個室で気を失ってた……なんて言えない。



「図書館。

 その後は駅前の本屋さんに行って、
 今は山波さんの家」


まだ着いてないけど……。


「瑠花、山波さんの家には
 まだ着いていないね」

「えっ?」

「山波さんのご自宅には、
 パパがお邪魔しているからね。

 正直に話して」



穏やか声色だけど、
パパが怒ってるのが感じ取れる。