そう……私にはやるべきことが、この場所であるはずだから。
総司の傍にずっと居たくても、何もせずに居続けるなんて出来ない。

多分、総司もそれは望んでいないと思う。



「あっ、瑠花さん。
 少し気になってることがあって。

 瑠花さんは、どうして……山波君、彼のことを『そうじ』君と言うのかしら?」



その言葉に私は、ドキリとする。
私が、幕末から沖田総司を現代へ連れて帰って来たのが知られたような気がして。
 

バクバクと波打つ鼓動を深呼吸して落ち着かせると、
その感覚から逃れるように、真っすぐに師長を見据えて当たり障りのない返答をする。



「私と山波君の間の秘密の名前って言うか、『そうじ』は山波君の

 ハンドルネームなんです。沖田総司が好きだから、総司って名乗っていて。

 だから私も、つい『総司』って山波君のこと、呼んでしまうんです」


そう言ってにっこりと笑った。


「まぁ、山波君のハンドルネームだったのね。
 沖田総司、新選組ね。

 だから彼は、何か剣術をしているのかしら?」


その言葉に再び、ドキっとしてしまう。


「えっ、えぇ……。
 総司は、高校で剣道部に入っているわ。

 総司が住む家も、山波道場をしているから、
 その辺りも影響受けてるかもしれないわね。

 それでは、ごきげんよう。
 山波君を宜しくお願いします」


そう言って、改めて深くお辞儀をすると、
足早に師長の前から逃げるように歩き出した。




どうしたんだろう。

病院の正面玄関のドアから出た後、
師長との会話を思い返す。


別に、なんてことのない普通の会話のはずなのに、
私は私と総司との今が、
いけない罪のように感じている自分に気が付いてしまった。



そんな風に感じたことなんてなかったのに、
敬里が命を落としたから?


私が総司を連れてこなければ、
敬里が幕末に旅立って死ぬ必要なんてなかったかもしれない。




そんな罪悪感がこみあげてきて、
喉が何かで詰まってしまうかのように息苦しさを感じる。


息を吸おうと思っても、思い通りに空気が入って来ない。


私は慌てて何処かのお店のお手洗いの個室へと駆け込んだ。

その場所で、
ドアに持たれるように呼吸を整えようと足掻き続ける。