「ご苦労。
 引き続き報せが入ったらまた教えてくれ」


そう言いながら土方さんは、
眉間に皺を寄せながら、目の前に開かれた地図へと視線を向ける。



「土方さん、戦況もあまりに良くないみたいですね」


そう言って傍へと進み出ると、
土方さんの傷口を確認して薬草を塗り、
再び布を巻いて傷口を保護する。


「山波、いつもすまない」

「謝ることなんてないですよ。
 私は私が今出来ることをやってるだけです。
 謝るくらいなら、有難うのほうが嬉しいです」

「そうか……そう言うものなのか……」



そう言って黙り込んだ土方さんは再び地図のほうへと視線を向けた。



地図の上には、小さな木々が、布陣の形に並べられていて、
報せが入るたびに、僅かにその場所が移動している。



私は傷口を手当てして道具を一式片づけて、
再び土方さんのもとへと戻った。


今度は湯治に行く支度をして声をかける。


清水屋旅館に来たばかりの頃は、
自身で歩いて温泉まで療養に行くことすら難しかったのに、
治療のかいあって、今はあれほど続いた高熱も下がり、
今では自分で杖をつけば少しずつ歩けるようになっていた。


そんな土方さんの回復を見て松本先生が提案したのは、
リハビリを兼ねて清水屋旅館から温泉までゆっくりと自身の足で移動して、
お湯につかり、そしてまた旅館へと戻ってくるのを日課にすること。


「今日も湯治に行く頃ですよ。
 支度は出来ています」


「すまない」


ゆっくりと体制を整えながら立ち上ろうとする土方さんだけど、
まだ足の傷の加減で立ち上がる際の踏ん張りがきかないのは感じてとれるので、
さり気なく介助の手を添えて支える。

土方さんが立ち上がったを見届けると杖を手渡した。

その後は杖にも重心をのせながら、
一歩一歩ゆっくりと踏み出し始める。


いつもの道のりを一歩一歩踏み出しながら前進するたびに、
額から滲み出す汗。


時折、休憩をはさみながら湯治場所まで辿り着くと、
そこで源泉が流れ込む川の中へと移動する。



「お疲れ様です。
 先に水分補給をしてください」


筒に入ったお水を手渡すと、
コップ一杯ほどの量の水を飲み干した後、
土方さんはいつものように温泉へと入っていった。


その間、私は同じ源泉が流れでる岩の陰で腰を下ろして、
同じようにコップ一杯ほとの水分を口に含んだ後、
足湯を楽しむように、足だけお湯の中へとつける。


少し温め【ぬるめ】のお湯に足をつけながら、
川のせせらぎに意識を向ける。