「一(はじめ)って、斎藤さんだよな。
 斎藤さんの名前と舞ちゃんって……何度も口にしてた。

 舞って名前はお前自身だから、
 自分で自分をちゃんづけで読むって言うのもへんだよな。

 山波の道場で一緒に練習してた頃に比べて、
 今のお前は、何かに悩んでるのが伝わってくる。

 何かに苦しんでるのが伝わってくる。
 聞いちゃ、ダメか?

 お前が苦しんでるモノ、俺が少しでも受け取りたいって言ったら嫌か?」




真剣な眼差しで、まっすぐに向き合ってくる敬里。


長く花桜の家の道場で一緒に過ごしてきても、
滅多に見ることがなかったアイツの真剣な眼差し。


こうやって見ると何処か……斎藤さんの眼差しにも繋がるものがあって、
私は自分自身の置かれてる状態を、ゆっくりと語りだした。



敬里には、ちゃんと話さなきゃいけないって思ってたから。




「ここはねー、私の前世の原点になる場所なの。
 舞ちゃんは、私の前世の名前。

 同じ名前で、同じ漢字なんて不思議だよね」

「前世?
 お前、何言ってんだよ。
 
 まだ熱あるんじゃないか?」


そういって、心配して額へと手を伸ばしてくる敬里。

そんな敬里の手をゆっくりと掴んで、
私は改めて敬里の正面で向き合った。



そして私は、改めて今自分の身に起きていることを
私の言葉で敬里に説明した。




信じられないかもしれないけど、
私には嘉賀舞と言う名前のもう一人の舞ちゃんの前世の記憶があること。


そしてこの場所も、
舞ちゃんの時間に来たことがある場所だということ。

この場所で、
前世の舞ちゃんが斎藤さんとの間の第一子を出産した場所であること。


そして……敬里が、
その系譜を持つ子孫だということ。




嘘みたいな、作り話みたいな実際の話を、
敬里は必死に自分なりに消化しようと努力してくれてるのが伝わってきた。



夕餉を頂いて就寝時間が迫ったころ、
敬里は私に再び問いかけた。



「なぁ、今の舞も斎藤さんが好きなのか?」



突然の敬里の言葉に絶句する。


どうしてそうなるの?
私、夢の中でそんなこといったの?



問われても即答できなかった。


前世の舞ちゃんは、斎藤さんが好き。

だけど今の私にとっては、
斎藤さんは同志みたいなんだ……。


優しくて今までもピンチの時は助けてくれたけど、
だけど恋人じゃない。


舞ちゃんのような愛情ではない気がする。




私は敬里に無言のまま首を少し横にふった。