次に目を覚ました時、私は懐かしい場所にいた。


知らないはずなのに、懐かしい場所。
そして私を覗き込む優しい夫婦の眼差し。



「気がつかれましたか?
 お嬢さん」

「おいっ、舞。
 大丈夫か?
 お前いきなり、ぶっ倒れて心配したんだぞ。

 舞を抱きかかえて病院探してる時にさ、
 親切なこちらの夫婦に助けて貰ったんだよ。

 少し熱、出てたみたいだぜ。
 無茶ばっかりしやがって」


そういって、口早く私を気遣う敬里の声が耳を刺激した。


「あらあらっ。
 坊ちゃんも心配だったのかも知れませんが、
 そんなに矢継ぎ早に攻め立てては、可愛そうですよ。
 病み上がりなのですから。

 さぁ、少し白湯を飲んでくださいな。
 後、こちらは主人が薬草を煎じたものです。
 
 よく効きますから、今はゆっくりと体を休めてくださいね」



そう言うと、助けてくれた夫人は炊事場の方向へと消えていった。


布団から体を起こそうと板間に手を突くと、
敬里が体を起こすのを手伝ってくれた。


「ごめん。
 心配かけちゃったね。

 あぁ、花桜に叱られちゃうねー。
 敬里に、こんなことさせちゃってさぁー」


わざとらしく声をかける私。



敬里も、本当だったら……私が巻き込まなきゃ、
こっちで幕末の苦労を味わうことなんてなかったはずなのに。



打ち明けたくても、打ち明けられない秘め事。
だけど……何時かは打ち明けたい秘め事。



目の前の難問から意識をそらすように、
煎じてくださった薬草を白湯にといて覚悟を決めて飲み干す。



そして何故か懐かしさを感じて笑みがこぼれた。



やっぱり……あの日と変わった歴史だけど、
全てが変わったわけじゃない。


舞ちゃんの記憶を持つ私が疲労で倒れてしまっても、
舞ちゃんに縁がある人が、ちゃんとこうやって助けてくれてる。


そして今、ご主人が煎じてくれたこの薬も……、
あの頃の舞ちゃんがずっと飲んでいた、懐かしい薬。




だけど……時間は、
あの時と変わり始めてるんだ。



今の私のお腹に、斎藤さんとの子供がいるわけないし……、
そういった行為もしていないのだから、生まれようがない。




……私、ちゃんと舞ちゃんの心を一つずつ、満たしてあげられてるのかな?……。



「なぁ、舞。
 聞いちゃいけないのかも知れないけどあえてきく。

 お前さ、夢の中でずっと魘されながら『敬里、ゴメン』って謝り続けてたんだけどさ、
 俺、お前に謝られるようなこと、思い当たらないんだけど」



突然の敬里の言葉に絶句する。

無意識のうちに、罪悪感で、魘されながら声にしてた?