『舞、無理をするな
 今、この村の人にお前が休めるように頼んできた』



目を閉じるだけで、脳裏に浮かんでは流れていく
嘉賀舞ちゃんの記憶。


あの日……斎藤さんと一緒に、
近藤さんを助けに向かっていた最中、
舞ちゃんは腹痛を起こして動けなくなった。


三条河原へと少しでも早く辿り着きたい斎藤さんは、
この村で舞ちゃんが休息をとれるように手配してくれた。


この村で舞ちゃんは初めて……、
斎藤さんの子供を妊娠していることに気が付いて、
腹痛は赤ちゃんからのSOSのサインだった。


舞ちゃんはその後も暫く……出産までこの村で、
村人たちに助けを借りながら生活したんだ。



その時生まれた、斎藤さんと舞ちゃんの間の子供。

その系譜を受け継いだ子孫が、
ここにいる敬里。




舞ちゃんは出産を終えると、
そのまま子供をお世話になった村の夫婦に託して、
斎藤さんを追いかけるように会津へと向かった。


だけど会津はすでに白旗を挙げた後、
見慣れた景色は一気に変わり果てていた。



斎藤さんの行方もわからないまま土方さんが北へと向かったと言う、
わずかな手掛かりを信じて、まっすぐに北へと向かった。



そして土方さんの最後に立ち会って絶望した。

その舞ちゃんの強い思いが今こうして、
舞ちゃんの記憶を受け継ぐ私によって再び動き出した。





知らないはずの場所なのに、
この景色も、この景色も、私の脳裏に浮かんできたものと同じ。



田んぼの畦道を通りながら、
私は目の前のまっすぐな大木の方へと歩いていく。


そして、その大木を背にして山の方へと向かった麓に、
舞ちゃんがお世話になっていた夫婦の家があるんだ。



知らないはずの場所なのに、
次から次へと脳裏に沸き上がってくる記憶。


私じゃない私の溢れ出る記憶に、
何が今の現実で、何が舞ちゃんの辿った過去かわからないほどに
シンクロし続ける時間。






ねぇ、舞ちゃん。
私に何を伝えたいの?

私は舞ちゃんの代わりに、
これ以上、何を頑張ればいいの?




「おいっ、舞?
 どうしたんだよ?

 さっきからお前、様子が変だぞ。

 おっ、おい」



敬里の声が遠のいていく感覚と共に、
私は体から力が抜けていくのを感じていた。