「別に怪しいものではありません。

 お世話になった方をお助けしたくて、
 この町に参ったものです」

「名は?」

「加賀 舞」


その人は、私が名を告げた後、


「この場では人目が付く。
 オレの宿へと来い」っと私たちを連れ込んだ。


「ここ数日で、三条河原に姿を見せたやつをオレは知っている。

 三条河原にさらされていたのは、
 新選組局長、近藤勇と知ってのことか?」


その言葉に私は、ゆっくりと頷いた。



そして帯の下にしまい込んでいた手紙をゆっくりと引っ張り出して、
斎藤さんの文面を見つめる。


斎藤さんが記した手紙を渡す相手を確かめるため、
ゆっくりと手紙を開いていく。


そこに記されているのは誓願寺の文字。


「ぶしつけな質問で申し訳ありません。
 貴方は、私共に局長の名を告げました。

 貴方は、局長に所縁のあるものでしょうか?
 私はある方に大切なお役目を頂戴して、この地に参りました」


静かに口を開くと、目の前の人も姿勢を正して私へと向き直った。



「近藤金太郎。
 貴方がたの探し主、近藤勇は従兄弟になります」


目の前の男はそう名乗ると丁寧にお辞儀をした。



「私は加賀舞。
 新選組三番隊組長、斎藤一の使いで参りました」

「新選組?」

「はいっ。
 こちらは、斎藤さんより誓願寺と言うお寺宛にお預かりした文です」


そういって私は、目の前に静かに差し出した。
近藤さんの従兄弟と名乗ったその人の視線は、文へと向けられる。



「斎藤さんの手紙を確認されますか?」

問いかけると、従兄弟さんはゆっくりと『それには及びません』と告げた。


「誓願寺とはこの傍のお寺でしょうか?」

「私も詳しくは存じませんが、朝にでも訪ねてみるつもりです。
 金太郎さんは、何時からこの場所へ?」

「オレも加賀さんたちが来る二日前に来たばかりだ。
 来た時には、まだあの場所にあったんだ。

 傍には人の姿もあってな、すぐに持ち出すことは出来なかった。
 そうこうしている間にタイミングを逃して、
 今となっては……何処にいるのかすらもわからねぇ」

「そうだったんですね。
 明日、心当たりを当たって必ず手掛かりを見つけたいと思っています」

「オレも一緒に行っていいかい?」


その声に、ゆっくりと頷いた。



翌朝、私たちは手紙を持って誓願寺へと向かった。

住職へと目通りして、
斎藤さんから預かった手紙をゆっくりと見せる。



住職はその文に目を通した後、
「承りました」っと小さくつぶやいた。



「貴方たちがお探しのものは、
今、私の手中にあります」



突然の住職の宣言に私たちは驚きを隠せない。