「なぁ、舞。
 京はまだ着かないのか―?」

「そうだねー。
 まだ先だよー」

「もう3日は歩き続けてるだろ。
 馬とか、籠とか、船とか……便利なもんはないわけ?」


そう言いながら、敬里を腰にぶら下げてる筒を取り出して水を飲む。


「だから、言ったのに。
 あんなにかっこつけて、私を守るって言ったその口はどこ行ったの?

 まだ10日以上かかるかなー。
 馬とか、籠とか、船とか、そんな贅沢出来る立場じゃないの」




そう、極力目立つことをしてはいけない。

ひっそりと、任務を遂行して……斎藤さんが守り通したい新選組の象徴を、
誇りを助け出したい。



「なぁ、舞。

 今から助けに行こうとしてるのって、あの歴史で有名なあの人だろ。
 お前、あったことあるの?」



敬里は手にしていた筒を腰へと再び戻すと、
私の隣へと肩を並べた。



「うん。
 会ったことあるよー。

 だけどあの人は、私よりも花桜の方が一緒にいた時間は長いかもしれないね。

 私が助けてもらったのは、政変の時だったかなー。
 私、敵対勢力の方に近い存在だったからさ。

 花桜や瑠花たちとは一緒に行動するには、なかなか障害があったんだ。


 だけどその時に、その人は『味方を信じる』って。
 私が花桜の友達だから、花桜が私のことを信じてるから私も信じるって、
 皆の前で宣言してくれた。

 器が大きい人だなーって」


それが私の感じた近藤勇の人柄。


そんな懐かしい時間を思い返していた敬里の足がピタリと止まって、
私の腕を引っ張った。



「なぁ、舞、あれ」


そう言った敬里の視線の先には関所といわれるものが姿を見せる。



「あぁ、あれは関所。
 
 この場所だと、山越えして関所破りをするよりは……
 そう、あそこの宿に少し顔を出そう」



敬里にそう言って声をかけると、
アイツは不思議そうに私の方を見た。




「ごめんくださいませ」


そういって、宿の中へと姿を見せると、
中から宿の人が姿を見せる。



その場所で、俗にいう『袖の下』を手渡して、
関所を通過するための手助けをお願いする。


宿の人も手慣れたもので、
翌朝には『宿の使用人』が宿のお使いで出掛けるのだと役人に話を通してくれて、
私たちは何事もなく通過することが出来た。