「山波君だったかな。
 今日のところは、手伝いはもう必要ない。

 土方さんのところへ戻りなさい」

「はいっ」

「あのっ……、土方さんですが、銃創の影響からか、
熱が出てしまっていて、来る前に、解熱と気血を補う薬を煎じました」

「君は薬にも明るいのですか?」

「私が知っていることはまだ少なく、私もまだまだ勉強中です。
 ですが私の大切な人が医学の心得を持つ人でした」

「君が時折、触れている簪を送った方ですか?」



先生にそう言われて、私は頷きながら、またその簪に手を伸ばす。


「鳥羽伏見の戦いの折、彼は私を守って銃に倒れました」

「そうでしたか。
 それは辛い思いをしましたね」

「だから今は、少しでも私が役立てることで、この戦を早く終わらせたいと思っています」




そう……私が元の世界に戻るまで。




「ならぱ、私の手持ちの漢方を少しわけましょう。
 ついでに銃創の際に必要な薬も教えましょう」

「有難うございます」




その後、その部屋で私は、先生に新たな漢方薬の名前と効能を教えてもらった。

それらを書き留めて、自分の知識へと繋げていく。
気が付けば夜が更に深まる時間となっていた。



「おやっ、遅くなってしまいましたね。
この薬は君に預けておきましょう。

 必要なときにしかるべき使い方を。

 そしてこちらは、土方さんへ。
 共に煎じた化膿止です。

 目が覚めたら、飲ませておあげなさい」


「有難うございました」



先生の元を離れると、私はすぐに土方さんが休む部屋へと向かった。


部屋に戻ると、土方さんはもう起きてしまったのか、
壁にもたれるように体を起こしていた。



「山波かっ。悪かったな、寝ちまったみたいで」

「いいえ。
 熱は下がりましたか?」

「今のところな。
 足の傷から来てる熱なら、今下がっているのは一時的なものだろう。

 地竜を煎じたか?」


図星を言い当てられて、私はゆっくりと頷いた。


「山波、戻ってきたばかりで悪いが、隊士の中島を見つけて、
 日光警備についている、土方勇太郎を連れてきてもらえねぇか?」


突然、土方さんはそう告げた。



「土方勇太郎……さん?
 それは土方さんのお身内のかたでしょうか?」

「違うぜ。
 アイツは、天然理心流で出逢った友だ。

 もう少し体を休める。
 勇太郎が来たら、起こしてくれ」


そう言って、土方さんは再び眠りについた。