「ご報告します。

 昼九ツ(正午)、伝習隊が伝馬町の迂回によって東山道と軍への奇襲を成功。
 武器弾薬を強奪することに成功、敵は段醜態の三方包囲により撤退。

 続いて昼八ツ(午後13時から14時)、長州・薩摩・鳥取・土佐・大垣藩。
 敵の進行にて猛攻撃が始まり、二荒山神社、宇都宮城は砲撃。

 お味方勢、夕刻、八幡山より日光方面に敗走。
 宇都宮城は新政府軍に掌握され、城は宇都宮藩に引き渡されたようです」



目の前の主らしき存在に、報告に来た兵士はそう言うと頭を垂れて、
すぐに出て行った。



「土方君、私の配下の報告の通りだよ。
 大鳥君も苦戦しているみたいだね。

 負傷兵に備えて、もう少し医者と薬の手配をしておこう。

 ここも長くは持たないかもしれない」

「はいっ。
 動ける隊士たちには、早々に日光へと向かわせます」

「日光ですか……会津ではなく……」

「大鳥さんなら、また再起を図ってくれるかもしれない。
 今、会津に直接逃げると、向こうが戦になった時に、守れる砦を失っちまう」

「そういう考え方もありますね。
 策に関しては一切の口出しはしません。

 暫くはこの部屋を離れます。
 明けの刻まで、暫く体を休ませるといいでしょう。

 随分とお疲れのようだ」



そう言うと、この本陣を切り盛りしている人らしい男の人は、
ゆっくりとした足取りで部屋を出て行った。


それと同時に気が緩んだかのように、
土方さんの体は、壁にもたれるようにしてずり落ちた。




「土方さんっ!!」


慌てて駆け寄ると、土方さんの体は汗に濡れて体温も高い。


慌てて、その近くに引きずるようにして横にならせると、
手拭いを折りたたんで、低めの枕を作る。

掛け布団の代わりには、着替え用に支度されていた着物を体へとかける。




とりあえず、熱を下げないといけない。


解熱と化膿止め。



私は慌てて部屋を飛び出して桶に水を汲んで、
部屋へと戻ってくる。


そして別の手拭いを濡らして、土方さんの額へと手拭いを置く。
 

熱を下げるには、確か……地竜だったはず。
そう思って、自分の手荷物の中で大切に持ち歩いている漢方薬の袋から、中身を取り出していく。

銃創により出血が多いなら気血をしないといけないから……、
蒲黄(ほおう=ガマの花粉)、人参(にんじん=高麗人参)、葛根(かっこん=マメ科のクズの肥大根)、
甘草(かんぞう=マメ科カンゾウ族の根や茎)、胡椒(こしょう)。


それぞれの漢方をすりつぶして粉末状にすると、
椀にいれてお湯を注ぐ。



「土方さん、お薬……飲めますか?」


そうして一度、声をかけるものの土方さんの目は開く気配も体を起こす気配もない。


器の中に入っている液体を覚悟を決めて、
自らの口の中に含みいれると、そっと唇を重ねて口の中へと注ぎ込んでいく。

同時に頸部をマッサージして嚥下を促していく。

何度か、そんな作業を繰り返した後、
私は再び土方さんの傍から少し離れて、他の隊士たちの手当の手伝いへと赴く。



負傷兵たちの包帯を順番に変えて傷口を消毒している間に、
周囲は真っ暗になっていた。