負傷兵たちが待つ部屋へと戻ると、水が入った桶を置いて、
花桜は順番に負傷兵の患部を確認していく。
「ごめん。もう少し水を運んできてくれるかな?」
花桜に頼まれた隊士さんは、頷くとすぐに部屋を後にしていく。
「花桜、無事だったのかぁー」
「って、そう言うアンタは何、怪我してるのよ。
まっ、アンタの傷は軽そうだから、後でねー」
花桜の手早さに助けられながら、
私も順番に負傷兵たちの傷口を洗い流し弾を確認する。
弾が入っている隊士たちは、私ではどうにもならず医師に弾の取り出しを委ねる形で、
次の隊士の手当へとうつる。
そうして、私と敬里が連れてきた斎藤さんの隊の負傷兵たちの手当が終わったころには、
土方さんや花桜の出発の時間が近づいていた。
「山波隊士、土方参謀の出発の時間が近づいてきました」
呼びに来た隊士の声に、「はいっ。今行きます」っと花桜は、
敬里の手当をおえてゆっくりと立ち上がる。
「花桜、気を付けて」
「花桜、気をつけろよ」
私と敬里が花桜に声をかけるのはほぼ同時。
「有難う。
舞も敬里も、気を付けて。
会津で、土方さんと待ってるから。
そして、ちゃんと皆で瑠花が待つ私たちの時代に戻るんだからね」
そう言うと、花桜は私たちの部屋を後にした。
瑠花が待つ私たちの時代に戻るんだから……。
何気ない言葉が、今の私にはとても寂しく感じる。
まだ明確ではないものの、私はこの世界に来た私がやるべきことが、
なんとなく見えてきたような気がしていた。
土方さんと一緒に、花桜が今市を出発した翌日。
斉藤さんたちが今市宿に姿を見せた。
肩を負傷していたものの、重傷ではなくてホッとした。
「お疲れさまでした。
斎藤さんが来られる前に、土方さんと花桜は、一足先に会津へと出発しました。
土方さんが足を負傷しているようです」
「何?副長が?」
「はいっ。
山波は今も副長と?」
「はい」
「加賀も一緒に行かなくてよかったのか?」
「私は……」
斉藤さんの傍に居たかったから……。
その先が続けられず黙っていたら、
斉藤さんの見かけによらず逞しい腕が私を包み込んでくれた。
「加賀に任せて良かった。
隊士たちを有難う」
こうして託された隊士たちを無事に宿まで送り届けた私は、
斉藤さんとの再会を喜んだのだけど、その数日後、もたらされた情報に私たちは涙を流すことになる。
新選組局長、近藤勇。
板橋刑場にて斬首。
その一報を受けた斎藤さんは顔色を変える。
「加賀、俺は行かなければならない。
局長をそのままにはしておけない」
こんなにも動揺している斉藤さんを見たのは初めてかもしれない。
「斎藤さん、局長を助けに行くのは私が行きます。
斎藤さんと違って私は一般人です。
斎藤さんは、あまりにも有名ですから……新政府軍に見つかったら捕まっちゃいます。
だから……その超重大任務、私に命じてください」
そう……私に命じてください。
前世の舞ちゃんが斎藤さんと一緒にやりかけて、
最後まで出来なかった大役。
私が今度は、やり遂げてみせるから。
「加賀……」
「斎藤さんは、ちゃんと斎藤さんの為すべきことを。
敬里のこと、お願いします」
そう告げると、どこかで休んでいたはずの敬里が私たちのいる場所へと近づいてきた。