「ごめん。
 獣道だと安全だと思ったのに……。

 皆、大丈夫?」


「加賀隊士の責任じゃありませんよ。
 こうして、加賀隊士は俺たちを守ってくれてる」

「ほらっ、舞。
 ちゃんとしっかりしろよ。

 お前が託されたんだろ。斎藤さんに」

敬里に背中を押されるように、私はゆっくりと頷く。


「皆、あともう少しだから。
 次の二股を右に下って、その先にある麓からすぐだからね」


私たちは獣道を歩き続けて、何とか無事に麓まで辿り着いた。


麓で見つけた小屋で息をひそめるように夜を明かして、
朝焼けと共に再び、今市の宿へと動き出した。



宿を守る隊士たちが私たちの姿をとらえると、
警戒するように視線を向ける。



「私たちは会津新選組、山口二郎配下の隊士です。
 私は加賀舞。

 負傷兵たちを山口さんの命令で、こちらへとお連れしました」


「会津新選組?」


突然の名乗りに疑問視をあげるように兵士たちは私たちへの警戒を強めているようだった。
 

「新選組だってよ」

「だが、会津新選組なんて聞いたことがねぇ」

「おいっ、誰か……参謀の土方さんに連絡を」


隊士たちが話した土方さんの名前に私は、負傷した土方さんがこの場所にいることを確信する。



「新選組の土方副長がこちらにいらっしゃるんですね。
 斎藤一の命令で、加賀舞が来ましたと伝えてください」 
 

此処に来て、斉藤さんの名前を覚悟を決めて出す。


土方さんの名前と、斉藤さんの名前を出すと、入り口を守る警備の隊士たちの顔色が変わる。


「おいっ、早く中に取り次げ。
 土方参謀だけでなく、斉藤って言えば、新選組の三番組組長だろう。

 俺たちが知らないだけで、本当にこいつらは、会津新選組っちゅうやつらなのかも知れん」



宿の入り口での数刻の攻防の後、私たちは中のお偉いさんたちとの許可を貰えて休息することが許された。




「皆、良く頑張ってくれたわね。
 次の戦まで、ここで傷を治しながら過ごして。

 消毒の準備をしてくるから皆、手当しやすいように準備しておいて。

 敬里、アンタも少し休みなさいよ。
 目の下、くまできてるから」



口早に告げると私は与えられた部屋から飛び出して、
手当に使う水と包帯代わりの布を探しに移動する。




「あれっ、舞っ」



懐かしい声が響いて、私は慌てて振り返る。



「花桜っ」


花桜が私の元へと駆け寄ってきて私たちは抱き合った。



「無事でよかった……舞」

「花桜こそ。無事でよかった。
 敬里も、無事よ。随分疲れてるみたいだけど……」

「そうだよねー。
 私たちと違って、敬里はまだこの世界に来て日が浅いもの」

「それより花桜。土方さんは?」

「土方さん、足を負傷しているの。
 だから戦闘を離脱して、もうすぐ会津へと移動することが決まってる」

「そう。花桜も行くの?」

「私もそのつもり。
 舞も一緒に行く?」


花桜の申し出に私は首を振る。


「ねぇ、花桜。斎藤さんは来てる?」


私の問いかけに、花桜は首をふる。



「そっか……。だったら、私はなおさら行けないよ。
 この場所で、斉藤さんを待ってる」

「うん。
 じゃ、舞と会うのは会津で……だね」

「会津で……。

 あっ、ごめん。医療道具余ってない?
 負傷兵の手当だけしたくて」


私の言葉に、花桜は「それを早く言いなさいよ」っと小さく呟いて、
何処かへと移動していくと、手に真新しい布を抱えて走ってくる。


「出発までもう少し時間あるから、私も手伝うよ。
 一人より、二人の方がいいでしょう」


そう言うと花桜は抱えていた布を私に託して再び、何処へ消えていく。
すると今度は、隊士をもう一人連れて、桶を手にして戻ってきた。