今市宿?
私たちは負傷兵を連れて、そこに行けばいいんだね。


有難う。
舞ちゃん……。



「敬里、行く先は決まったわよ。

 皆、今市宿に向かうわ。
 動ける人たちはお互い助け合いながら、移動してちょうだい。

 敬里、私がその人の支えになるから、敬里は敵の様子を探りながら進行先を確保して」


私が告げると、敬里は支えていた隊士の腕を私の肩へと移動させて、
ゆっくりと前方へと走っていく。



「加賀隊士。自分も敬里さんと進行先の偵察に加わります」

「有難う。二人とも気を付けて。無理しないで」



今市へ向かう道すがら。
メインの道は新政府軍が進軍してくるので通れるはずもなく、
私たちは山の中の獣道のような場所を中心に歩いていく。




「皆、足元気を付けて。
 足元がかなりぬかるんでるから、滑落しないでね」



負傷兵たちを酷使しているのはわかってる。


表のメイン道を歩ければ、今頃は今市に到着してるかもしれない。
だけど、それは新政府軍に見つかってしまうリスクが高くなる。




「舞、次の道は、二股になってるぞ。
 どっちに行くんだ?」



敬里は時折戻ってきては、先の道筋を確認していく。
その瞬間、葉がカサカサと揺れる音が聞こえる。



「おいっ、誰かいるのか?」



突然、見知らぬ声が山の中に響いて、
銃声が轟く。




息をひそめるように身を縮めやり過ごす時間。




何度目かの発砲の後、鳥がバサバサと音を立てて空へ飛び立っていく音が聞こえた。




「なんだ。鳥だったのか。
 おいっ、こっちに幕府軍の残党はいないようだ。

 お前たち、向こうへ行くぞ」



そんな声が聞こえた後、数人の足音が遠ざかっていくのが聞こえた。





「やばっ。
 お前ら、大丈夫か?」



敬里の声に、それぞれの隊士たちの緊張の時間が解放されて、
お互いの無事を確認しあう。