頭の中に浮かべるのは、地理の授業で習った現代地図。
負傷兵のばかりの部隊であるから体に極力負担をかけずに、
移動したい。
「斎藤さん、私は町人に紛れるような装いで行こうと思います。
仰々しい戦に赴く衣装を身に纏っても目立つだけです」
「あぁ。
それでいい」
「なら、同行する皆さんにもお伝えしてよろしいですか?」
「かまわん。
道中、新政府軍とは戦うなと隊士たちに徹底して申し伝えてくれ」
「はい。
今から隊士たちを集合させますね」
静かに一礼すると、私は伝言役としての務めを順番に果たしていく。
敬里まで声をかけて戻ってくるとすでに支度をおえて集合し始めている隊士たちの元へ、
斎藤さんが姿を見せる。
近藤さんに託された負傷兵たちは、皆、体のあちらこちらに包帯を巻いて、赤い血を滲ませていた。
肩を負傷したもの。
腕を負傷して、肩から三角巾でつっているもの。
足を負傷しているのか、仲間に支えられながら杖をつくもの。
そんな隊士たちが会津への思いを馳せながら集まってくる。
斎藤さんはそんな隊士たちの輪に入り、自らも支えになりながらリーダーとしての役割を果たしていく。
そこに敬里も姿を見せる。
「加賀、そしてそこのお前も……。名は?」
斎藤さんはそう言って、敬里へと視線を向ける。
「名、名は……敬里」
「そうか。なら、加賀と敬里は負傷兵の荷物持ちを補助しながら同行しろ。
行くぞ」
斎藤さんの声で、それぞれが思う町人的な衣装に身を包んだ私たちは、
先に斎藤さんが考えたルートでの移動を目標に会津へと歩み始めた。
途中、何度か新政府軍が旧幕府軍の残兵である私たちを探していると言う噂は、
旅の商人やらすれ違う旅客から耳にすることもあった。
今も私たちにとっては苦すぎる記憶の、甲州勝沼の戦いでの旧幕府軍の逃げ惑った寄せ集めの兵士たちの話をしては、
大笑いしている声。
あまりの悔しさに、剣を抜こうとする負傷兵たちを諫めながら、
私はただ黙って唇を噛みしめる、斎藤さんを見つめる。
「えっと……さっ……」
斎藤さんと言いかけた私の口元を、慌てて片手で抑える。
「馬鹿っ。山口だ。
いい加減に覚えてくれ」
っと耳元で紡ぐ斎藤さん。
すると「向こうに残党兵の姿を見たものがいるぞー」っと誰かの声が聞こえ、
周囲が慌ただしくなる。
残党兵でもある私たちの緊張も一瞬高まっていくものの、
一行たちは、町人の装いの私たちには目もくれずに何処かへと走っていった。
道中、行く先々で新政府軍と遭遇するも町人や、商人、旅の一座たちの助けもあり、
予定通りにコースを移動できていた。
平潟からやっとの思いで、会津の地へ踏み入れる。
その道中、会津の村々を観察するように移動していくものの、
村は賑わっているようには見えなかった。