「瑠花さん、部屋のものを一通り敬里に説明して、
 鏡の前に連れてきていただけますか?」


お祖母さまの言葉にゆっくりと頷いた。



総司と共に、部屋に支度されたものを一つ一つ確認していく。


机の中には筆記具を始めとする勉強道具が整頓して並び、
クローゼットには洋服たちがズラリと並んでいる。

クローゼットの隣の箪笥の中には胴着が丁寧に片付けられて、
竹刀と木刀が用意されていた。



総司は、ゆっくりと木刀に手を伸ばして構える。
久しぶりに見た総司の姿に、出逢って間がなかった頃の総司を思いだす。
 


「花桜の家は道場もあるから、気になったら道場で練習させて貰ったらいんじゃない?

 だけどその前に、鏡の前に行かないと。
 お二人が待っていると思うから」


そう言うと、総司はゆっくりと木刀を元の場所に戻して部屋を出た。


「山波はここでずっと暮らしていたの?」

「うん。ここは花桜が生まれ育った家だもの。
 花桜の部屋はね、この部屋」


そう言って、総司に支度された部屋の左隣の部屋を指す。


ちゃんと帰ってくるんだよ。
花桜、この部屋に……。



そんな思いを込めて、ドアにゆっくりと触れた。



総司を連れて、お二人が待つ鏡の元へと辿り着くと、
二人は私たちをゆっくりと鏡の前へと座らせた。



「さて、敬里。

 敬里として我が家でこれから暮らしてもらうわけじゃが、
 わしも、ばあさんもこの鏡で一部始終を見届けて参った故、
 語らずとも真実を知っておる。

 まずは、この現実を知る者のみが集まったこの場で、
 お前さんに伝えておこうと思う」



鏡の前でお祖父さまのその言葉から今日までの一部始終が、
総司へと語られた。





そう……、この世界に戻ってきてからの僅かな間でも、
見ているだけで辛くなる映像を、この二人はずっとずっと見守り続けてきた。



あの幕末で出会った山南さんから今も繋がり続けるこの時間。



そして最後に、お祖父さんがゆっくりと白木の箱を取り出して総司へと差し出す。



「お前さんが敬里としてこの世界に来た時、
 腰にさしておったものじゃ。

 幕末と違って今は刀を持つにも許可が必要じゃて、
 わしが今日まで預かっておった。

 剣は武士の魂であろう。
 これはお前さんに返しておこう。

 わしらの孫たちが、幕末へと旅立っていったのも、ご先祖様からの縁があってのことだろうと、
 受け入れておる。

 それ故に、わしらは、お前さんを敬里として接する。
 戸惑うことばかりじゃと思うが頼るがよい」


お二人は、そう言って総司に話しかけた。





総司は鏡の隣にある大きな仏壇の方へと視線を向ける。



「ここに山南さんも……」


小さく呟くと翻弄される自身の運命を受け入れるように、
静かに仏壇に向かって手を合わせた。