学校からの帰り道は坂だ。

ゆるやかにカーブして下っていく。


砂名は大悟の左側を歩く。

いつもの決まりだ。

大悟が車道側は男が歩くものだろ、と言い、そうなった。

それをいつも守っている。

律儀な大悟。

やっぱり、やさしい、と砂名はいつも思う。


「砂名は誰かに渡したの?チョコ……」

「わたしてないよ」

頭を振りながら答えた。

「そっか……」


(今しかない!)

心の中で叫んだ。

そして、足を止める。

「どうした?」

歩調を合わせてくれている大悟が、急に止まった砂名に問う。


「私、大悟のことが好き!!!」

カバンの中から包みを出して差し出す。

「受け取って!」

その時間は一秒が一時間にも感じられた。

「ったー」

「え?」

何って言ったの?と顔を上げると、チョコレートの包みを持つ手が大悟の手で包まれた。

「やったー」

どさりと、大悟のカバンが道に落ちる。

砂名の体はすっぽりと大悟に抱きしめられた。

(なに?)

(何が起こっているの?)

「オレも砂名が好き!」

(ほんとうに?)

大悟の体温を感じながら、砂名は自分のばくばくとした心臓の音を聞いていた。

(ほんとうなんだ)

それを実感してくると、自然に笑みがこぼれた。

そろそろと両手を大悟の背中にまわす。

大きいからだ。あたたかい。本当の大悟だ。


それが私たちの新しい始まりだった。