その日の夜、砂名は自宅の部屋でウサギのぬいぐるみを抱えていた。


“彼のことが好きじゃないんですか”

学校で言われた言葉を思い返す。

(何で……)

(私も好きって言えなかったんだろう)

ウサギがつぶれるほど抱きしめ、頭をうずめる。


(そんなのわかっている。ただ、勇気がないだけ。)


大悟にふさわしくない。

そう決めているのは自分。


きっと、大悟にはふさわしい彼女ができるだろう。

遠くない未来に。

それでも、気持ちをただ押し殺すのは辛い。


ぐるぐると考えていると、ふと机の上の参考書が目に入った。

大学受験。

その言葉が背表紙に太字で印刷されている。

今、砂名は高校二年生。

もう遠くもないうちに受験生になる。

ふと大悟の言葉を思い出した。

“オレ、大学で家でるわー。下宿楽しみー”

くったくのない笑顔でそんなことを言っていた。


今、登校や下校など、大悟と一緒にいられるのは隣に住んでいるから。

ただ、それだけのことがとても大きい。

もし、卒業後、大悟の進路が叶ったら、この関係は終わる。

終わるのだ。

(気持ちを言わずに離れるのはイヤ!)

ふた呼吸おいて、ぎゅっとウサギを抱きしめる。


(私も、告白しよう)

そう決意した。