私とまきちゃんが遅かったせいか、更衣室にはもうほとんど人がいない。
すれ違うようにクラスメイトが出ていって、中は私たち三人だけになった。


お互い会釈はしたものの、何か気まずい。
あの視線にさらされながら着替えるのは気が重いな、なんて思っていたとき、青山さんが口を開いた。


「───お試しで付き合ってるんだってね。
ケンタとあなた」


ケンタ…。
小林くんを名前で、しかも呼び捨てにしてるんだ。
知り合ってからの時間も一緒にいる時間も多いのは青山さんだから仕方ないのに、そんな小さいことがいちいち気になる。


「ええ、まぁ…」


「大人しそうな顔して、結構あざといんだ」


私がびっくりして顔を上げると、青山さんは鏡ではなく、直接こっちを向いて続けた。


「だって。
断られたのにお試しで付き合ってもらうなんて、普通ならありえないでしょ」


自分でも痛いところを突かれて何も言えない。
そんなことまで青山さんには筒抜けなんだ。


「こっちが様子見てる間に横取りするなんて。
泥棒猫みたい」


だって仕方ないじゃない。
青山さんの気持ちなんて知らないし。
別に横取りしようと思ったわけでもない。


私は自分の気持ちを止められなくて。
様子を見るとか、そんな余裕ちっともなくて。
ただこの思いを小林くんに伝えただけなのに。