「何を呑気に……!私は絶対に蘭さんに勝っていただかなければ困ります」

「って、言われてもなぁ。私の出来の悪さに多代さん呆れちゃってるし」

「大丈夫です。母様は絶対にきちんと見定めて下さいますから!……ただ、最近体調が悪いようで」

「え、双葉さんが?」

「はい……。もうひと月ほど前から風邪のように咳が出始めて。今朝は微熱があると仰っていました。そんな中でも家の仕事は手を抜かない人なので心配で」



確か、私が部屋に案内してもらうのを断ったのは、双葉さんの体調が悪そうだったからだ。

もしかしてあの時から風邪を拗らせてたのかな?


「そっか、心配だね。……薬は?」

「薬は一番近くても、西風まで行かないと手に入らないんです」

「西風まではここから遠いの?」

「歩いて片道二時間ほどです。先程、使いの者たちが調達に向かったようなのですが、今から向かっては着く頃には日が暮れてしまうので、戻りは明日になるかと」

「……そっか。薬が届くまでに酷くならきゃいいんだけど」



私の言葉に静かに頷いた姫蓮ちゃんからは心配の色が滲んでいる。

そんな姫蓮ちゃんの背中をポンポンと軽く叩いて、どうにか元気づけようと口を開いたとき、



「姉さん!」



切羽詰まったような虎太の声に、姫蓮ちゃんと二人で部屋の入口へと視線を向けた。