───ドクン……ドクン……

東洲の深森。
歴史の教科書でも見たことがない。


それに、過去にタイムスリップしてしまったとしてもさすがに何月何日……とか日付の概念くらいはあったはずじゃない?

ほら、長月とか神無月とか……。

でも、ここでは桜が咲けば春、蝉しぐれを聴いて夏、木々が紅葉したら秋で、雪が舞ったら冬。


日本を知らなくて、2017年を生きていない。

着物を着ていて、東雲家に仕える……東里家の離れ。


……分からない。考えれば考えるほど、不安が増して怖くなる。

夢なら一刻も早く覚めて欲しい。


つまり……これが夢じゃないのだとしたら本当に、本当の本当に、私は今、異世界にいるのかもしれない。


「……あの、楓さん私、信じてもらえないかもしれないですけど」

「あんたこの世界の者じゃないね?」

「っ……」


自分から打ち明けようと口を開いた私は、楓さんに先手を打たれて言葉に詰まる。

その楓さんの険しい顔を見て、これからのことが急に不安に思えて、どうしようもない恐怖に潰されそうになったから。

「分からない、何も分からないけど……!ここは、私の知ってる世界じゃありません。

その着物が普段着だって言うなら、もちろん着ているものも、こうして住んでる家も。

私の家はもっと洋風だし、それに話し言葉も少し違うみたいだし、とにかく全部……私の知ってる世界とは何もかも違うんです!」


なるべく興奮する自分に蓋をして、なるべく冷静を装う。