「まず、日本って言うのは何?東西南北のどこにある地域なの?聞いたことがないけど」

「に、日本を知らない……?そんな、だって国の名前……」


そのとんでもなく離れた場所って言うのは、あの世じゃないのであれば、

もしかしたら異世界なのかもしれない。

……って。
いやいや、まさか!

そんな夢みたいな話あるわけないじゃん!


「蘭と言ったわね。着ているものは可笑しいと思っていたけど、言っていることも可笑しい。……もしかして、南梨の間者か?」

「南梨の”患者”?……いや、熱はもう無さそうだし病院に行くほどでは……あの、今、何年ですか?西暦!私、2017年の1月を過ごしてたんです!おかしなこと聞いてるかもしれないんですけど、あの……ここも、2017の1月でしょうか?」


私のあまりの勢いに、驚いたように目を見開く楓さんは、よく見れば色白で、

ゆるく頭の後ろでお団子にされた黒髪がとても似合う、和風美人だ。


「2017年の1月……?それは季節のこと?私たちは桜が咲けば春、蝉しぐれを聴いて夏、木々が紅葉したら秋、雪が舞ったら冬。そうして日々を過ごしてる」

「……じゃあ」

「蘭は、日本の2017年の1月から来たと言うの?」

「はい……」

「何度も言うけれど、ここは東洲の深森。今はちょうど山が真っ赤に染まった紅葉の秋よ」