「それ、やめてよね」


「あ?」


「顎の先で私に指図しないで欲しいって言ってるの」


「……気にすんなよ。癖だ」


口ではあーだこーだと言いながらも、私は結局 紅蓮に指示された場所にドカッと腰を下ろした。


「癖なら直して。次やったら怒るよ」


「もう怒ってんだろ」


口うるさい私にうんざりしたらしい紅蓮は、どこか叱られたあとの飼い犬のようにシュンとしていて、ちょっとだけ可愛い……なんて思ってしまった自分に慌てて蓋をした。



「……それで、話しておきたいことって?」


座るまで分からなかったけれど、こうしていざ座ってみると、紅蓮との距離の近さに恥ずかしさがこみ上げてきた。


軽く手を伸ばせば触れられる。


そんな距離で、お互いに見つめ合ったまま紅蓮の言葉を待っている。


心臓が、やけにうるさい。


「あぁ……単刀直入に言う」


「……うん」


やけに真剣なその顔に、これから紅蓮が話すことは大事な話なのかもしれないと、私まで背筋が伸びてしまう。




紅蓮色の瞳は、相も変わらず何を考えているのか分からないし、さっき笑ったのが嘘のように紅蓮は表情一つ変えないけれど、


それでもなぜか、


紅蓮の気持ちが私の心には伝わってくるような、そんな不思議な感覚。