***



「じゃあ、しっかりやるのよ」


「お母さん……あの」


「大丈夫よ。全て聖様に委ねればいい。難しく考えなさんな」


「そ、そんなこと言われても」



……あれから、あれよあれよと湯浴みをさせられ、ポカポカに温まった体に濃いピンク地の女の子なら誰でも可愛い〜!と声を上げずにはいられないほど華やかな着物を着せられた私は、



日が暮れかけた頃、お母さんに連れられ東雲家を訪れた。


緊張で手汗はやばいし、
口の中は乾きすぎてパッサパサだし、


何より心臓さんが超高速でドクドクしてる。
まるで100m走を終えたあとみたいだ。

私を見つめ、少し意地悪く笑ったお母さんは「明日の朝、迎えに来るから」と小さく呟くと、今私たちが立っている目の前の部屋へ向き直る。


そして、


「聖様、蘭をお連れいたしました」


「っ……」



私の心の準備が出来るのを待つこともせず、中にいるであろう紅蓮に向けて、声を放った。







無理。
超絶無理。



「入れ」



紅蓮の短い返事に、障子越しだって言うのに頭を下げたお母さんは、トンッと私の背中を押して


「じゃあ、またね」と呟くと、簡単に私に背を向けて来た道を戻って行てしまう。


その後ろ姿を目で追いながら、もう内心パニック状態だ。