一つを夜雨さんに。

もう一つを虎太くんに。

そして、私の前にも盃が置かれる。


もちろん、残りの一つは楓さんの手の中に残ったまま、盃の中でその透明な液体は揺れ漂う。




「これは神酒だ。3回に分けて飲み干す。この神酒を飲み干したとき、蘭殿は東里 蘭と名乗り、東里家の長女として東雲家へ忠誠を誓う」


「つまり蘭殿は、父と母の子に、そして私の姉君になる……と言うわけです」


柔らかく笑いながら夜雨さんの言葉に説明を付け足した虎太くんに、こくりと一つ頷いて見せれるけれど、


心臓はやっぱりドクドクと激しく高鳴る。


だって、世界が違うとは言え、そう簡単に涼風の名を捨てるようなことを……私はこれからしようとしている。


お父さんやお母さん……千紘の顔が浮かんで、胸がぎゅうっと苦しくなる。


そんな私の気持ちを感じ取ったのか、夜雨さんは人の良さそうな優しい目を少しだけ細めて私に告げる。


「そう案じなさんな。こちらの世では私たちを家族と呼んでくれればいいのだ」

「……夜雨さん」


初めて会ったと言うのに、その優しさが身に染みて涙腺は決壊寸前。


夜雨さんは、何て大きな人だろう。