どう考えてもありえないこの景色を、どうにか正当化しようと冷静に考える。

……あぁ!私ってば熱でもあるんだ、きっと。


寒いとは思ってたけど、そこまでとは思わなかったな。まさか紅い蜃気楼が見えるなんて。

いや、待てよ?寒さのせいで蜃気楼が見えてるだけかもしれない。

きっと、そうだ。


───涼風家の血を引く巫女よ。


……え。

何、今何か聞こえなかった?


───紫黒の巫女よ。


ドクンドクンと心臓が音を奏でて、冷や汗にも近いものが体からじわじわと湧き出して来るのが分かる。


だって、聴こえる。
誰かが、間違いなく私に向かって呼びかけている声が。


巫女とか、紫黒とか良くわかんないけど、なぜか自分に向けられた言葉のような気がして、どうしようもなく胸がザワザワする。


───選ばれし巫女よ。


視界が歪んでクラクラする。

目を開けていられないくらい強い目眩が私を襲って、次の瞬間、目の前が真っ白になった。


───お前の力を必要とする者がある。


足に力が入らない。

もうだめ、立ってられない。


───蘭、力を解き放ちなさい。


……力?

何それ、私に力なんて……あるわけない。


───涼風家の名の元に。


涼風家の、名の元に…………?
だめだ、もう何も考えられない。


自分が立ってるのか、座ってるのか、はたまた倒れてるのか。何なら起きてるのか、寝てるのかすら。何一つ分からない。

だけど、とにかく温かくてフワフワして、なぜかすごく心地いい。