「……この世界の者ではない?」


「はい。光蓮様は、蘭が紫黒の巫女であることを願われております。聖様をお救いして欲しいと、ここへ来る前、蘭へ直々に頭をお下げになりました」



このことを、紅蓮に言っても良かったのだろうか。光蓮様はわざわざ紅蓮がいないところで、私にお願いをした。

なんだかあの時、そんな気がしていただけに


今目の前で目を見開き、驚きを隠せない様子の紅蓮を見て、やはり言うべきではなかったのではないかと心配がよぎる。


それでも、楓さんは真っ直ぐに紅蓮を見つめてさらに続けた。




「聖様、光蓮様は聖様が大事なのです。誰よりも聖様を案じ、お救いしたいと願っておられます。どうぞ、光蓮様のお気持ちをお察しください」


「……」


「では、蘭を連れて失礼します」



楓さんに小さく手招きされて、私はなるべく摺り足で入口へと向かう。


そんな私を見ながら何か考える仕草をする紅蓮に、楓さんの隣に並んで小さく頭を下げた。


もちろん、こんな高貴なお方だ。

次はいつ会うか分からないし、もしかしたらもう会うことはないかもしれない。


「さようなら」の意味を込めての礼。
「助けてくれてありがとう」の礼。