「……すげぇ、眠くなる」


「……は??」


「道に倒れてたのを担いで帰った時も感じた。何でか、お前が近くにいるとすげぇ眠い」



何を真面目な顔で言ってんだ、コイツは。


キョトン、と紅蓮を見つめればその紅い瞳に私が映る。



「……じゃあ、寝れば?」


「あ?」


「眠い時は寝るのが一番。眠気を我慢するのは身体に毒よ」


少なくとも私はそうだ。
眠い目を擦って必死に聞く授業ほど、自分の身体に悪いと感じるものはなかった。


それにほら、たくさん寝たあとの幸福感といったら……!極めつけは2度目かな。



なんて、呑気な私の脳内を一蹴するように紅蓮が口を開いた。


「身元も分からねぇ女の前で寝られるかよ。まさかお前、睡眠薬でもまいてんじゃねぇだろうな」


「……っとに、どこまで失礼なのよ!」


いい加減話してよ!と、告げる代わりに思い切り紅蓮の手を振り払った。


途端、紅蓮に掴まれていた手首に空気が触れてやけに冷たい。

もう一つ文句でも言ってやろうと口を開きかけた瞬間、急に立ち上がった紅蓮が私から少し距離を取り、障子へと視線を向けた。


「誰だ」


つられるように私もその視線の先を追う。

誰かいるの?
私には物音一つ聞こえなかったのに。