――コン、コンッ。
「前原くん、いるか?」
――ガチャ。
「……え、新八さーん!」
祐一郎は驚き、背筋をピンと張る。
暗室の中は感光させないための特殊な電球で赤く、彼の笑顔はとても不気味に見えた。
「急に、どうしたんです?」
「うん。キミに話したいことがあって」
「へぇ~、なんだろう。作業しながらでもいいですかね?」
「もちろん! 構わないよ」
50歳を過ぎて初体験する空間に、少しばかり心が踊る。
「そうだ! ちょうど今、あのときの写真を現像しようと思ってたんです。ほら、僕がつい撮ってしまった……」
祐一郎は申し訳なさそうに言う。
あのときは、せめてこの手で抱きしめたいと思っていたが、磨理子さんの怨念が消えた今、私が彼を恨むわけにはいかない。
「気にしなくていいんだよ」
「もしも写ってたら、新八さんにもあげますから」
ピンセットで黒い紙をつまみ、張ってある水に浸けた。
「それは?」
「現像液です。フィルム上にできた潜像を可視化するために浸すんですよ」
「……んーっと、子供にでもわかるように説明してもらえるとうれしいな」
「ハハッ―― それより、話ってなんです?」
あぶりだすように写真を揺らす祐一郎。
私はたった今から、ひた隠された悪魔をあぶりだす。
「こんな事件があったのを知ってるかな?」