その日、沙奈の病室にやってきた宇治木という若い刑事。
彼女の回復を喜んだあとで、私の顔を見るなり、驚きの声をあげた。
「ぁ、ああなたはたしか……」
彼はカバンの中をまさぐり、1枚の写真を取り出して、私の顔と照らし合わせる。
「やっぱり……伊達重信! なぜ、ここに!?」
「宇治木くん、キミのことはよく知っているよ」
「え!? ……は?」
何の因果か、彼は浦野が目にかけていた後輩。
混乱したまま、傍らで黙って見ていた敬太を頼る。
「ねえ、これ、どういうこと?」
「実はですね……」
敬太は、おそらく沙奈用に準備していたであろう説明を宇治木に話しはじめた。
順序立て、要点がしっかりまとめられた完璧なそれに、
「い、生きてたんですね! あなたがあの、迷宮の門番……」
彼は手のひらを差しだし、私は強く握った。
「その呼び名はやめてくれ。遠い昔の話だ」
「だって、浦野さんがよく話してくれたから」
「……そうか。キミのことも会うたびに話していたよ。なかなか骨のある、有望な刑事だってね」
宇治木は感極まり、ポケットからハンカチを出して涙を拭く。
生前、よほど浦野を信頼していたのだろう。
私だって同じだった。
「そうだ。敬太くんに報せておきたいことがある」
彼を椅子から引き離し、病室の隅でヒソヒソと話す。
「長谷川菜摘が……自殺?」
「あぁ。今朝、自分の首を刺して」
「そんな……」
「足立里恵と前原ことみ殺害の件は、被疑者死亡で不起訴処分だろうね」
「前原?!」
聞き耳を立てていた私は、思わず会話に割りこんだ。
そこで初めて、前原祐一郎の妹が殺されていたことを知る。
少し前から、胸に抜けないトゲがあった。
気になりだすと、徹底的に突き詰めたくなる性分は、警察を辞めても変わらないらしい。
「宇治木くん。これから、時間あるか?」
「え!? ま、まあ……」
私の唐突な誘いに、彼は困惑しながらもついて来た。