「磨理子さんはね、私の必死な願いを聞いてくれたわけじゃないの、多分。磨理子さん自身が、敬太を殺すことをやめたのよ」
「え!? どうしてだろ……」
と、今度は余った左手を私に差しだす。
小指のない、痛々しいその手を。
「お父さん……」
「ッ゛!?」
まるで、娘に呼ばれているかのよう。
たったひと言で、こらえていたはずの思いの丈が、瞳から雫となってこぼれ落ちる。
私は誘われるがまま、白く華奢な手を両手で包む。
沙奈は頬をゆるませて、つぶやいた。
「似てるのよ、ふ・た・り」
「ぅ゛、っ……」
敬太が、まっすぐな目で私を見て言う。
「もう、終わりにしましょう」
「……ぐっ」
まさか、娘に放った言葉が自分に返ってくるなんて。
「新八さん。今日で、自分を責めるのはやめてください。磨理子さんはあなたのことを恨んでない」
「あ゛ぁ、そう信じるよ」
単に、私はひとりに戻っただけ。
そんな風に思っていた。
しかし、沙奈の手のひらに安らぎ、からっぽの心が“繋がる”ぬくもりで埋まってゆく。
すべてを失ったはずの生きる亡霊は、人と人との間に“絆”を得て、もう一度“人間”に生まれ変わる。
敬太はきっと、このことを私に教えるために、沙奈の元へ連れてきたのだろう。