「沙奈……」
「……敬太」
傍から見ている私でも、ふたりが愛し合っているのが手に取るようにわかる。
「よかった! 本当に」
「ごめんね、私……」
少女は彼の首筋を手のひらで優しく包んだ。
「もしかして、憶えてるの?」
「うん、鮮明に。必死で抵抗したんだよ、あのとき……」
「あぁ、それはちゃんと感じてた。沙奈が俺を助けようとがんばってくれたから、今も生きてる」
「…………」
ふたりは額を合わせ、互いの熱を確かめているかのよう。
私には、双方の愛に温度差は感じられない。
「ン゛ン゛ッ!」
見るに見かねて、わざとらしく咳払いをした。
とたんに、ハッとして離れるふたり。
「ぁええっと、紹介します! この子が沙奈です。でね、驚くなよ? この人は……」
「知ってる」
「「え!?」」
これには、私も驚いた。
「なんで!? 初めて、だよね?」
「そうだけど……磨理子さんのお父さんでしょ?」
「「…………」」
絶句するほかに術がない。
沙奈は、これまで自分の身に起こっていたことを話しはじめる。
「ずっと、ベッドだけしかない部屋に閉じこめられてたの。そこには四角い小窓があって……向こう側に敬太も見えたし、渋谷の駅前でチラシを配ってたのも、全部知ってる。だけど、敬太からは私が見えていないみたいで……どんなに叫んでも、声は届かないし」
ベッドだけが置かれた部屋に、四角い小窓。
私は知っている。磨理子が監禁されていた部屋だ。
「マジックミラー……」
無意識に、口をついて出る。
「そ、それです! カメラのフラッシュに似た光のあとに、その鏡? ……が粉々に割れて、夢から醒めたみたいに……直前に映っていたのは、あなたでした。山の中で、涙を流して謝るあなた。知らない人のはずなのに、私も胸が苦しくて、切なくて……」
「ッ……」
沙奈は、敬太の手のひらにすべての指を絡ませて握った。