「アクリル板の向こうで、ヤツは最後に言ったよ。“アンタは今も、実家の床下に眠ってるはずだ!”……ってね」
私が話し終えると、敬太は下唇を噛みしめ、皮膚に爪がめりこむほど拳を握っていた。
まるで、自分の身に起こったことのように怒りを堪える彼を見て、純粋な正義を携えている数少ない人間だとわかった。
「この顧客リスト、やっぱスゲぇーわ……」
たいていの輩は祐一郎のように、金になりそうなそれにいつまでも目を輝かせているだろう。
「あの時は、塀も法も越えて、本気でアイツを殺そうと思った」
――ドンッ。
悔やんでも悔やみきれず、ザラついた床に拳を叩きつけた。
「すべて、すべて……私の゛せいなんだ!」
嗚咽を堪えきれない。
膝をつく私の背中を、敬太が優しく擦った。
「あなたのせいじゃありませんよ」
「いいや、ちがう! 君江の思いに、もっと早く気付いていたら、磨理子は……磨理子は……」
自分の身に新しい命を宿らせることがなかった君江は、いつしか歪んだ狂気を隠し持っていた。
その毒牙は、亡き妻そっくりの磨理子に剥く。
「こんな所に潜伏しているのは、君江さんを見守るためですか?」
敬太から、核心を突く問いかけ。
「あぁ。すべてを知ったあと、私は生きる気力を失くした」
君江を殺して、自分も死ぬ。そんなシナリオを思い描く日々。
だが、病院の窓辺に座って切なげに外を眺める君江を見たとき、その思いも消え失せた。
「いくら恨んでも、深く憎んでも、愛おしいんだ。君江が」
「ッ゛……」
涙が枯れた私の代わりに、敬太が泣いた。
しかし、過去を開示することで、呪いの連鎖が終わるわけではない。
「私の願いを聞いてはくれないか?」
磨理子に会いたい。会って、詫びたい。
そして言うのだ。
『もう、人を呪い殺すのはやめろ』と。