ヤクザの世界に足を踏み入れた敏也。
それを許さなかった磨理子。
夫は、いつか受け入れてくれると信じていた。
しかし、妻の愛は瞬く間に薄れていく。
信じていたのに裏切られたと歪んだ解釈をした敏也は、自分のもとから去ろうとする磨理子を監禁。
やがて、どうせ別れるのなら、利用しようと画策した。
父親、すなわち私は警察の人間。
実の娘が暴力団幹部のもとに嫁いだなど、蓋をしておきたい事実。
敏也は実家に電話を掛け、出た先の私の妻、君江にこう言う。
『旦那のキャリアと娘の顔に傷をつけたくなかったら、磨理子の身代金として1000万用意しろ! 警察には言うなよ。意味はわかるな?』
すると、君江は驚くべき言葉を口にする。
『お好きにどうぞ!』
敏也は耳を疑ったが、同時に感心もした。さすがは県警幹部の妻だと。
脅しには屈しない毅然とした態度に業を煮やし、磨理子の小指を切り落として郵送。
これで態度を改めるだろう、そう思っていた。
後日、驚くことに、その小包が返ってくる。
中には、変色した磨理子の小指と君江からの手紙。
ノートを適当に破っただけの紙には、
【これは誰の指かしら?
そうそう、あの娘の左腕には手術痕があるの。
信じてほしいなら、それを切り落として送ってきなさい。
ま、あなたには無理でしょうけど】
と書かれていた。
あきらかな挑発と受け取った敏也。
金のため、君江を平伏、服従させるため。
言われたとおり、磨理子の左腕を切り落として発送。
それこそ、自分自身が君江に服従しているのだとこのときは気付かずに。
【本当に、あの娘のようね。
でも……大丈夫かしら?
脚があったら逃げられちゃうわよ?
逃げたら大変じゃない?】
当時、たしかに磨理子は何度も逃亡を試みていたらしい。
すっかり口車に乗せられた敏也は、磨理子の脚を切断。
四肢の半分を奪われ、逃げる気力さえも失った磨理子。
だが、これで終わらなかった。
敏也のもとにまた、1枚の写真と手紙が送られてくる。
差出人は、兵藤君江。
画質の粗い古びたモノクロ写真に、四肢のない女がひとり。
【この女は、見世物小屋で人気の“商品”らしいわよ。
磨理子の美貌なら、1000万なんてすぐに稼げると思わない?】