「佐奈。何か俺に怒ってる?」

運転席の圭吾が私に尋ねてくる。
病院からの帰り道、さすがに圭吾も気づいたらしい。

「私はいつだって圭吾には怒ってますけど」

ツンとしながら、そう返す。

「まあ、そうだよな」

車内は再び沈黙になる。

と、そこで、圭吾のスマホが『ピコン』と鳴った。
この音は『ライン』というものに、メーセージが送られて来たときのものらしい。

圭吾がそう教えてくれた。

「圭吾。ラインだよ」

「ん。後で見るよ」

「でも、相手の人も待ってるんじゃない? 車を止めて出てあげたら?」

「ラインだから大丈夫だよ。緊急だったら電話にかけてくるだろうし」

幾度となくこのやり取りを繰り返してきたけれど。
私は実際にやったことがないから、いまいちシステムが分からないのだ。

ようやく信号待ちになって、圭吾がスマホを手に取った。

「佐奈のお見合いの日、決まったよ。明後日の7時。佐奈の予定は大丈夫?」

ラインの相手は、私のお見合い相手だったようだ。

「うん、大丈夫…だけど」

いよいよかと暗い気持ちになる。

「佐奈。とりあえず会うだけでも会ってみよう。どうしても嫌だったら、後から断ったっていいんだから」

圭吾も必死なのだろう。

ズキンと胸は痛むけれど、確かにいつまでも拗ねてたって仕方がない。

会社の将来だってかかってる訳だし、
今度こそ覚悟を決めないとだ。

「そうだね。分かったよ」

観念した私は、圭吾の言葉に大人しく頷いたのだった。