「え!? あの人がそう?」
塩田さんは、圭吾を見つけそう言った。
「うん」
「うわっ。カッコいいじゃない! 凄いね。佐奈ちゃん。あんな人が彼氏なんて!!」
目を輝かせながら、興奮する彼女。
「違うの、圭吾は彼氏じゃなくってね」
「も~~! ここまできて照れなくっていいから」
塩田さんは完全に誤解しながら、車に近づいていった。
「こんにちは。塩田万里です。今日、佐奈ちゃんとお友達になったばかりなんですが、どうぞ宜しくお願いします」
にこにこする塩田さんを見て、圭吾が目を丸くする。
そりゃ、そうだ。
私にはずっと友達なんていなかったのだから。
「あ、どうもこんにちは。真崎といいます。あっ、良かったら、駅まで乗って行きますか?」
「いいんですか?」
「もちろんです。ね? 佐奈」
爽やかに笑いながら圭吾は私に同意を求めた。
「あ、うん。ぜひ」
こうして、塩田さんを後部座席に乗せて、車は走り出した。
……
5分後。
駅のロータリーへ到着した。
「ありがとうございました。じゃあ、佐奈ちゃん、また明日ね」
「うん。ノートありがとう」
彼女とそんなやり取りをしていると、圭吾が運転席の窓から塩田さんに声をかけた。
「佐奈を宜しくお願いします。世間知らずで誤解されやすい子ですけど、どうか仲良くしてやって下さい」
圭吾は、まるで保護者のような口振りで真剣に私のことを頼んでいた。
………
「そうか。良かったじゃないか。佐奈。お友達ができたのか~。お父さん、嬉しいよ」
病室では、圭吾から塩田さんの話を聞いた父が嬉しそうに笑っていた。
友達ができたことが大ニュースだなんて。
何だか自分が小学生のようで、ちょっと恥ずかしいけれど。
こんなに喜ぶ父を見て、随時心配させていたんだなあと改めて思う。
「これで、佐奈の縁談さえ上手くいってくれればなあ~。あとは何も言うことがないんだがなあ…」
父はそう呟きながら、圭吾の顔をチラリと見た。
「はい。近々、食事の席を設けるつもりですのでご安心下さい」
圭吾の言葉が重く胸にのしかかる。
そうか。
着々と進んでいるんだ。
ショボンとする私に父が言う。
「佐奈。安心しなさい。お父さんも一度合わせてもらったけどな、真崎が紹介してくれだけあって、なかなかの紳士だったよ。佐奈をきっと大事にしてくれるはずだ」
「え、圭吾の紹介なの?」
そんなの聞いてない。
ジロリと圭吾を見ると、
「俺の大学時代の親友だよ。話してなかったっけ?」としれっと言ってのけた。
何それ。
よりによって自分の親友を私に紹介するだなんて、あんまりだ。
私は何も答えずに、プイッと圭吾から顔を背けた。