「じゃあ、4時に迎えに来るからな。頑張ってこいよ」

圭吾に車で送ってもらい、私は久しぶりに大学の門をくぐった。

そう言えば、もうすぐ試験もはじまるんだよなあ。
今回、私、大丈夫かな。

思わずため息をつきながら、今日も最前列の席へと座る。

しばらく、ひとりでボンヤリしていると、トントンと肩を叩かれた。


「ねえ、良かったら、私のノート写す? ずっと休んでいたよね?」

振り向くと、後ろの席の女の子が、私にノートを差し出してくれた。

彼女は確か、いつも彼氏とイチャつきながら講義を受けている子。

でも、今日は彼氏とは別々に座っている。
もしかして、別れてしまったのかな。

なんて、余計なことを考えていると、彼女は「ん?」と顔を傾げた。

私は慌てて返事する。

「あ、ありがとう。でも…いいの?」

同じ学部とはいえ、お互い名前も知らない仲なのに。

「いいよ。困った時はお互い様。はい、どうぞ~」

彼女は人懐っこい笑みでニコリと笑う。

「ありがとう。じゃあ、コーピーさせてもらって、帰りに返すね。あの…良かったら…電話番号を教えてもらっても…いいかな?」

「うん、うん!もちろん」

こんな会話は久しぶり過ぎて、私の方はかなり緊張してしまったけれど…。

“塩田万里さん”

私のスカスカの電話帳に、彼女の名前が加わった。

「それじゃ、また帰りにね~~」

講義が終わると、塩田さんは元気に手を振りながら、教室を去って行ったのだった。


………



午後の講義が全て終わり、塩田さんに電話をかけてみることにしたのだけど。

友達にかけるのなんて、いつ以来だろう。
何だか凄く緊張する。

『はい。もしもし』

『あ、あの…もしもし』

『あっ、佐奈ちゃん?』
 
『う、うん。そう』

何だか凄く照れてしまう。

『フフ…何か電話って新鮮だね。いつもラインだから』

クスクスと笑いながら、塩田さんが言う。

『あ、そうだよね。ごめんね』

『あ~違う、違う。いい意味だから。それより、私今ね、南館の3階にいるんだけど、佐奈ちゃんがここから見えるよ』

『え?』

ふと、上を見上げると、三階の窓から塩田さんが大きく手を振っていた。

『あっ』

『フフフ。今から降りるね~~』

と、そこで電話の方はプツッと切れた。


………


「あの…これ。どうもありがとう。凄く助かったよ」

さっき売店で買ったチョコレートを添えて返す。

「いえいえ。どういたしまして。ところで佐奈ちゃんはもう帰るところ? 一緒に駅まで行かない?」

誘われて凄く嬉しかったのだけど。

「ご、ごめんね。私、裏門にお迎えが来てて」

と謝ると、塩田さんはニヤリと笑った。

「なになに、彼氏が迎えに来てくれてるの?」

「え? あっ、ううん。彼氏…ではないの。何ていうかその……」

返答に困っていると、塩田さんはクスクス笑いながら私の肩に手を回した。

「分かった、分かった。彼氏じゃないってことにしておくから、裏門まで一緒に行こう」

「う、うん」

何となく誤解されているような気もしたけれど、私はニヤニヤする塩田さんと共に裏門へと向かったのだった。