こうして、私達は同居を始めることになり、圭吾は車に積んできた自分の着替えを、早速ゲストルームへと運び込んだ。

「ほら、佐奈も支度しておいで。大学行くんだろ?」

「え……大学」

そうだ…。
ずっと行ってなかったな。

“自分の生活を優先させなさい”
父にもそう言われたばかり。
ちゃんとやるべきことをやらなければ。

「そうだね。着替えてくる」

私はコクンと頷いて、自分の部屋へと上がった。

そして、20分後。

「佐奈、そろそろ出ないと遅刻するぞ。まだ服決まらないのか?」

痺れを切らした圭吾が、二階へと上がってきた。

「うん、ごめん……後ろのファスナーが髪に絡まっちゃっててね」

そう。
ワンピースを着ようとしたら、ファスナーの金具に髪が引っかかってしまい、もがいているうちに余計にこんがらがってしまったのだ。

いつも、ファスナーのある服を着る時は、マサヨさんにお願いしていたのだけど、自分の不器用さに改めてショックを受けた。

「佐奈。やってあげるから、出ておいで」

ドア越しに圭吾が言った。

「う、うん」

廊下に出て圭吾に背中を向けると、圭吾は私の髪に優しく触れた。

「ごめん、ちょっと痛いかもしれないけど我慢な」

「うん、大丈夫」

こんなに近くに圭吾を感じたのは、いつ以来だろう。
何だか緊張してしまう。

「よし、できた」

「ありがと」

振り返りお礼を言うと、圭吾は私をジッと見つめてきた。

「なに?」

「いや、そのワンピース、初めて見たなって」
 
「あ、うん。おとといね、病院の帰りにマサヨさんが洋服屋さんに連れて行ってくれて。しばらく困らないようにって、たくさん選んでくれたの。あっ、なんか変だった?」

「ううん。佐奈によく似合ってるよ」

目を細めて微笑む圭吾に思わずドキッとしてしまう。

「そういうセリフ…軽々しく言わないでよね」

照れた顔を見られたくなくて、私は階段を駆け下りたのだった。