「俺──香乃華と結婚することにした」



「……え?」



視線だけをこっちに向けて静かにそう言う東條。

その視線は、いつもあたしに向けられるようなものではなく。
どこか隔たりのある、冷ややかな視線。



「そう、決めたから。
だから、俺はもうお前とは付き合えない。

──じゃあな、秋月」





今、思えば。
ケンカをした時以外で、東條から名字で呼ばれたのは……初めてのような気がする。


蘭、と名前で呼んでくれるのが当たり前になっていた。

だから余計に、胸が痛いのかな。



“──じゃあな”



その言葉は──……


本当のさよならを、意味するの?

あたし達、本当に別れちゃったの?



さっきの冷たい視線を思い出すと──泣きそうになる。