「束縛すればするほどリョウの気持ちがあたしから離れてくの感じて
焦れば焦るほど束縛せずにはいられなくなって……。
なんつうの? 泥沼みたいな?」

自嘲するように笑いながら彼女はピンクの口紅のあとの残る煙草をぎゅっと灰皿に押し付けた。

「最後の方はもうどうしていいかわかんなくてさ、ぐちゃぐちゃだった。
本気でリョウを刺して、自分も死んじゃおうかとか思った」

笑えないよね、

そう言って笑いながら彼女はカフェの白いカップに口を付けて
ごくり、と黒い液体を飲みこむ。

「リョウはそんなあたしにうんざりしてたんだよ。
だからわざとあたしが帰って来る時間にあんたの事押し倒す真似なんかしてさ。
あたしから別れるって言わせるようにしたんだよね、きっと」


「……なんで、そんな」

彼女の事がイヤなら自分でそう言ったらいいのに。
わざと彼女を傷つけるような事するなんて……。

「だってさ、あたしリョウから別れようって言われたって絶対『うん』って言わなかったと思うもん。
『イヤだ、別れたくない』って泣いてすがりついてたと思う」

彼女は華奢な腕で頬杖をつきながら窓の外の景色を眺める。

今はこんな淡々とリョウくんの話をしてるけど本当は今まで何度も泣いて苦しんできたんだろうな。

「……なんて言って、本当は期待してたんだけどね。
『行くな』って『俺が悪かった』って。
もしかしたらリョウがあたしを追いかけてきて、引き留めてくれるんじゃないかってさぁ」