「あたしすごいすごいリョウが好きでさ、一方的に惚れて強引に押して付き合ったのにちっとも幸せじゃなかったの」

ガラスの灰皿の上に細い煙草から音もなく灰が崩れて散った。

「キスしてても抱き合っても一緒に暮らしてても。
なんでだろうね。すごい好きな人と一緒にいれるのに全然幸せじゃなくて苦しいばっかりだったな」

長い睫毛を伏せて彼女は静かに笑った。

「いつもリョウを疑ってた。あたしの事なんか別に好きじゃないんじゃないかって。
他に違う女がいるんじゃないかって。
すぐにあたしを置いてどっかに行っちゃうんじゃないかって。
どうすればいいかわかんなくてバカみたいにリョウを束縛した」

心の中の重い物を吐き出すように
彼女の言葉はひとつひとつ
ずっしりと響く。

聞きながら胸が苦しいくらい締め付けられた。

「わざと見える場所にキスマークつけたり、ケータイチェックして女の番号消したり
耐え切れなくてケータイ壊したり
学校行っちゃヤダって、仕事も行っちゃヤダって毎日泣いたり。
好きだから、必死だった」

折れてしまいそうなくらい細い腕で栗色の髪をゆっくりとかきあげて静かにそう続ける彼女は
すごくすごく綺麗だと思った。

「疑って、束縛して、必死でリョウにすがりついて。
リョウが好きだから信じようなんてあの時のあたしには考えられなかった」

本気で人を愛する彼女がすごく綺麗だと思った。

たとえ、その愛する方法が間違っていたとしても。