ただまっすぐに見つめ合う二人に、あたしはその場から一歩も動けなかった。
人ごみに紛れ遠くに小さく見えるあの女の人には気づいて
すぐそばにいるあたしにはまったく気づかないリョウくんに
声をかけることもできずただ立ち尽くしていた。
あたしはこんなに近くにいるのに。
少し歩いて手をのばせばすぐ触れられる場所にリョウくんはいるのに。
どうしようもない距離を感じてカバンを持つ手をぎゅっと強く握りしめた。
リョウくんは彼女をみつめたまま、ゆっくりと左手を顔の前に持ち上げて見せる。
その左手首にはシンプルな茶色のシュシュ。
そのリョウくんの行動を見て
心臓がつぶれるかと思った。
心がイタイと悲鳴を上げる。
リョウくんは彼女の事をまっすぐに見据えたまま
そのシュシュに優しく口付けをした。
なんて切ない愛情表現……
リョウくん、本当に彼女の事が好きなんだ
心臓が握りつぶされるように痛くて、苦しくて、涙が出た。