あ。アトリエのストーブ、灯油入れないと夜中に切れそうだ。

コーヒーを運んだらそのまま給油しよう。

寒さのあまり両手を擦り合わせながらマンションのエントランスを出た時、足が止まった。

だってアプローチの街灯に、美しいロングヘアと華奢な身体が照らされていたから。

あれは……顔は見えないけど……間違いないと思う。

「た、立花さん……」

少しドキドキしながら声をかけると、弾かれたように女性が私を振り返った。

やっぱり……立花さんだ。

「あ、の、私」

立花さんの口から出た白い息が次々と辺りの空気に溶けていくのを見た私は、次に彼女の手にかけられている袋に気付いた。

これは……ベリルの袋だ。

ベリルとは有名なコーヒー専門店で、いつも行列が絶えない人気の店だ。

「立花さん……それってもしかして……」

立花さんは何も言わず、ただ俯いている。

「凌央は……コーヒーがないとダメな人だから……か、会社に忘れていたから」

辿々しくそう言った彼女は今にも壊れてしまいそうに可憐だった。

「立花さん、身体が冷えてしまいます。中に入りましょう」

そう言って私がそっと腕に手を伸ばすと、彼女は私を見つめた。

さっきまで泣いていたんじゃないかと思うほど潤んだ瞳は罪悪感に溢れていて、とても苦しそうだ。